『樹海村』

TOHOシネマズ上野、スクリーン5入口脇に掲示された『樹海村』チラシ。
TOHOシネマズ上野、スクリーン5入口脇に掲示された『樹海村』チラシ。

監督:清水崇 / 脚本:保坂大輔、清水崇 / 企画&プロデュース:紀伊宗之 / プロデューサー:中林千賀子、高橋太典、三宅はるえ / 撮影:福本淳 / 照明:市川徳充 / 美術:寒河江陽子 / 装飾:中澤正英 / 編集:鈴木理 / 衣装:小磯和子 / ヘアメイク:梅原さとこ / 特殊スタイリスト:百武朋 / 録音:西山徹 / 音響監督:赤澤勇二 / VFXスーパーヴァイザー:鹿角剛 / 音楽:大間々昴 / 主題歌:CHiCO with HoneyWorks『鬼ノ森』 / 出演:山田杏奈、山口まゆ、倉悠貴、安達祐実、原日出子、工藤遥、神尾楓珠、塚地武雅、國村隼、大谷凜香、高橋和也、黒沢あすか、成田瑛基、重岡漠、吉村卓也、富山えり子、並木愛枝 / 制作プロダクション:ブースタープロジェクト / 配給:東映
2021年日本作品 / 上映時間:1時間57分
2021年2月5日日本公開
公式サイト : http://www.jukaimura-movie.jp/
TOHOシネマズ上野にて初見(2021/2/6)


[粗筋]
 YouTuberのアキナ(大谷凜香)は、自殺の名所として知られ、不可解な噂の絶えない冨士の樹海潜入の模様を生で配信していた。GPSを用意し、帰り道を見失わないための命綱も設け、万全を期しての挑戦だったが、道中、自殺者らしき人影を目撃したところから、配信は異様な展開を見せ始めた――
 天沢鳴(山口まゆ)と響(山田杏奈)の姉妹は、幼馴染みの夫婦・阿久津輝(神尾楓珠)と美優(工藤遥)の引っ越しを手伝っているとき、新居の床下に奇妙な箱を発見する。鳴の恋人である鷲尾真二郎倉悠貴)は開けてみよう、と提案するが、響は何故かそれを懸命に制止する。現れたご近所の男性が、前の住人が残していったのだろう、と言い、処分を買って出るが、その直後に男性はトラックに撥ねられてしまう。
 以来、不審な出来事が相次いだことに不安を覚えた一同は、真二郎の父・良道(高橋和也)が住職を務める寺でお祓いを依頼した。良道は鳴や響たちは寺の客間で寝かせ、自身は徹宵、お祓いの儀式を続けるが、その様子を盗み見た響は、周囲に無数の不気味な影を目撃するのだった。
 お祓いも虚しく、不可解な出来事は続く。ある日、美優が忽然と行方をくらました。輝のスマホにインストールされていた追跡アプリを用ってその行方を辿ると、新居からほど近い樹海の中を示している。
 そして事態は、更に最悪の連鎖を始めるのだった……


[感想]
 まだCOVID-19の影響が深刻化する少し前に封切られ、ヒットを遂げた『犬鳴村』に続く《恐怖の村》シリーズ第2作である。前作からきっちり1年での封切、という昨今の邦画としては異例の早さで実現したのは、前作自体がフランチャイズの皮切りとなることを期待して企画されていた、という事情もあったらしい――その割に、本篇は構想自体が続篇の決定を受けて始まったそうで、監督らがパンフレットの取材などで語るエピソードには突貫工事の慌ただしさが露わなのだが。
 前作同様、本篇はネット社会の中で萌芽し育っていった都市伝説をモチーフにしている。よく語られている怪異そのものではなく、ホラー映画ならではのドラマを軸にして、それに沿う格好で加工して肉付けしている。パンフレットにも言及があるとおり、劇中で重要なモチーフとなってくる“箱”は、ネット上で《コトリバコ》として流布したものを原型としつつも、だいぶ性質を異にしている。
 存在自体が胡乱な《コトリバコ》はむろん、そもそも冨士の樹海はあらゆる場所で方位磁石が狂うわけではないし、内部に孤立した集落が存在するわけでもない、というツッコミはこの際、野暮だろう。前作がそうだったように、ネット上でまことしやかに語られる都市伝説を、フィクションとしてアレンジしつつ、その恐怖を反映した作品に仕立てるのが眼目なのだ。有名な説と異なるのも現実に添っていないのも、作り手は承知のうえだろう。
 ただ、そう承知した上で引っかかるのは、《箱》や《樹海村》の存在そのものや、それらが影響を及ぼす範囲、障りの内容などが全般に恣意的で、規則性が見出しにくい点だ。
《箱》が何故あそこに存在したのか? という点はまあ許容するとしても、《箱》に接したことに起因する怪異がいまいち統一性に欠くため、驚きはするが、じわじわと迫ってくるような恐怖に乏しい。範囲はなんとなく察しがついても、その影響の種類や順番が恣意的なので、釈然としない印象が残る。怪異なのだから、何もかもがルール通りである必要はない、というのも考え方ではあるが、少なくとも当事者がそれを意識し、恐怖する過程がなければ、観客に伝わりづらいのも事実だ。
 また、生者と死者、正気と狂気との境があまりに曖昧すぎるのも気になる。恐らくそれもある程度は狙っている節があるのだが、あまりに境を不明瞭にしているが故に、刺激される感情が一定しない。ホラーであっても人間の感情のリアリティや、それが醸成するドラマを疎かにしていないことは評価出来るが、収まりの悪さがあることも否定出来ない。
 と、ホラーとしての構造的にあちこち気になるところはあるのだが、全体の佇まい、雰囲気は申し分ない。序盤の、怪異が起きる前に描かれる人間関係から滲み出す不穏さ、現実と妄想のあわいが醸成する不安定な空気。決してただの脅かしではなく、雰囲気を盛り上げることで恐怖を生み出す語り口は堂に入っている。
 また、中心となる登場人物たちが、発生した事件や怪異に対して示す反応が自然であることもポイントだ。特に顕著なのが、実質的な主人公である響が起こしたことに、周囲が示す反応である。監督も語るとおり、欧米のホラーではしばしば、仲間が死んだり行方不明になったとき、その影響に無頓着であることが多い。あくまで観客を恐怖させることが主眼なので、表現として排除される傾向にあるのだろうが、本篇はそこを無視しないことで、じめっとした怖さを増幅し、かつ随所で繰り広げられる、決して単純な足し算、引き算では済まない人間関係の難しさを巧みに演出する。それがクライマックスの、おぞましくも感動を誘う展開を助けているのも、単なるショッカーに留まらない日本産ホラーの本懐と言えよう。
 個人的には、もうちょっとルールを明確にすることで、身近に迫ってくるような怖さも付与できたのでは、と惜しまれるのだが、全体としてツボはしっかり押さえている。《呪怨》シリーズで日本産ホラーが世界的に通用することを証明した職人・清水崇監督らしく、風格のあるホラー作品である。


関連作品:
犬鳴村
呪怨』/『呪怨2』/『THE JUON―呪怨―』/『呪怨 パンデミック』/『輪廻』/『戦慄迷宮3D THE SHOCK LABYRINTH』/『ラビット・ホラー』/『雨女
雪女(2016)』/『幼獣マメシバ』/『一度死んでみた』/『の・ようなもの のようなもの』/『ミッドウェイ(2019)』/『惡の華
ノロイ』/『fuji_jukai.mov

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