『ミッドウェイ(2019・字幕)』

TOHOシネマズ上野、スクリーン8入口脇に掲示された『ミッドウェイ(2019)』チラシ。
TOHOシネマズ上野、スクリーン8入口脇に掲示された『ミッドウェイ(2019)』チラシ。

原題:“Midway” / 監督:ローランド・エメリッヒ / 脚本:ウェス・トゥーク / 製作:ローランド・エメリッヒ、ハラルド・クローサー / 製作総指揮:マーク・ゴードン、マルコ・シェパード、ウェス・トゥーク、ピーター・リャオ、ハン・サンピン、ケー・リーミン、ジエ・ユー、ユー・ドゥン、ジェフリー・チャン、ブレント・オコナー、カーステン・ロレンツ、ウテ・エメリッヒ、アラステア・バーリンガム、ゲイリー・ラスキン / 撮影監督:ロビー・バウムガルトナー / プロダクション・デザイナー:カーク・M・ペトルッチェリ / 編集:アダム・ウルフ / 衣装:マリオ・ダヴィニョン / 視覚効果:ピーター・G・トラヴァーズ / キャスティング:ジョン・パプシデラ / 音楽:ハラルド・クローサー、トーマス・ワンカー / 出演:エド・スクライン、パトリック・ウィルソン、ルーク・エヴァンス、アーロン・エッカート、豊川悦司、浅野忠信、國村隼、ニック・ジョナス、ルーク・クラインタンク、ダレン・クリス、キーアン・ジョンソン、マンディ・ムーア、デニス・クエイド、ウディ・ハレルソン / AGCスタジオズ製作 / 配給:kino films
2019年アメリカ作品 / 上映時間:2時間18分 / 日本語字幕:松崎広幸 / 字幕監修:白石光
2020年9月11日日本公開
公式サイト : http://midway-movie.jp/
TOHOシネマズ上野にて初見(2020/09/17)


[粗筋]
 駐日アメリカ大使館に勤めていたエドウィン・レイトン(パトリック・ウィルソン)は、日米会談のあとの会食のさなか、日本海軍武官の山本五十六(豊川悦司)とふたりきりで話す機会を得る。山本は、日本の石油シェアの80%を押さえるアメリカが強硬姿勢に出ようとしていることを憂えていた。これ以上追い込まれれば、いずれ最悪の手段に打って出る可能性がある。
 1941年12月、その危惧は現実のものとなった。アメリカの軍事拠点であるハワイの真珠湾を日本の海軍が奇襲した。ハルゼー中将(デニス・クエイド)が指揮を執る空母エンタープライズが情報を受けて真珠湾に寄港したときには既に日本軍の姿はなく、そこには蹂躙され尽くした艦隊の残骸と死傷者たちの姿があるばかりだった。
 この頃、海軍情報将校となっていたレイトンにとって悔やんでも悔やみきれない事態だった。かつての山本の言葉に加え、彼は奇襲の兆候を察知、太平洋艦隊司令長官に進言していたが、聞き入れられなかったのだ。責を負って負われた司令長官に代わって、新たに赴任したチェスター・W・ニミッツ(ウディ・ハレルソン)は、日本についての知見を有するレイトンを情報参謀に抜擢、日本の連合艦隊司令長官である山本五十六の考えを読み、次の計画の情報を得るように指示する。
 その一方、アメリカは誇りを賭け、着実に反撃を重ねていった。真珠湾奇襲の打撃は大きく、熟練した操縦士や航海士を大勢失ったアメリカ軍だが、型破りな操縦士ディック・ベスト(エド・スクライン)の活躍で日本軍がマーシャル諸島に設けた基地を破壊するなど、相手にも損害をもたらす。
 そして1942年2月には、ドゥーリトル(アーロン・エッカート)率いる部隊が日本列島を縦断、各地への爆撃を成功させる。折り返しの燃料を無視した強行軍ゆえに、既に日本の侵略が進む中国の領海に不時着せざるを得なかったが、日本軍の対象を選ばない攻撃に憎悪を燃やしていた中国の民衆はドゥーリトルたちを匿い、本国への帰還を手助けした。
 山本にとっても、この本土に対する空襲は痛恨事だった。天皇陛下や日本国民を直接危険に晒したことで、山本はますます早期決着の必要性を実感する。そこで、かねてから趨勢を決するためには攻略が不可欠と考えていたミッドウェイへの侵攻作戦の準備し始める。
 しかし、優秀なスタッフを擁したレイトンは、そんな日本軍の動きをいち早く察知する。傍受した暗号を解読した結果から、日本軍が次の大規模な襲撃を計画していると確信した。問題は目標地点――“AF”と呼ばれる攻撃地点の特定に至っていない。レイトンは寸暇も惜しみ、情報の精査を繰り返した――


[感想]
 戦争にあまり興味のないひとでも(私も基本的にはそっちの部類だ)、“ミッドウェイ海戦”という名前くらいは聞いたことがあるはずだ。それまで連戦連勝に近い状態だった日本軍にアメリカ軍が大打撃を与え、太平洋戦争の流れを一変させた、と評価される激戦である。それだけに、幾度も映画の題材として採り上げられている。
 この戦闘を描いた他の映画に接していないので、それらと比較して語ることは私には出来ないが、しかし本篇が単純に“戦争映画”として看たとき、その表現の公正さにまず唸らされる。
 かつて、アメリカ側から太平洋戦争を描くと、日本人が血も涙もない民族のように描かれることが少なくなかった。ハリウッドで活躍した早川雪洲や、黒澤明作品から世界へと飛躍した三船敏郎など、名の通ったキャストが起用される場合はいくぶん配慮が見られたようだが、戦争映画に限らず、古い作品で日本人や日本文化を描いたものには、日本人が看ていて辛いものも少なくない。
 その点、本篇は冒頭から表現がフェアだ。物語を真珠湾奇襲以前から始め、まず日本が宣戦布告に至った理由の一端に、燃料問題に関するアメリカの強硬姿勢があったことに言及している。必ずしも野心や単なる暴走で戦端を開いたわけではない、と明示している。また、山本五十六ら司令部の人間にも戦争そのものは強く望まず、開戦した場合も短期間で講和出来なければ危うい、と悟っていたことも描かれる。また、残虐な行いをする者もいる一方で、そうした日本の軍人にも聡明な者がいたこと、そして武士道にも通じる潔さを示す者がいたことなども織り込んでいる。メインはあくまでアメリカ側の視点だが、日本側のこうした見せ場が適度に挿入されているので、不快感を覚えない。むしろ、どちらにも理があり、故人としての感情が存在したことに、痛ましさが滲む。
 ただ残念ながら、全体で観ると、雑然とした印象を受けてしまう。ざっと調べてみたところ、かなりしっかりとリサーチを実施したようで、実際の出来事や武勇伝を多く採り入れていることが窺えるが、それ故にまとまりがなくなってしまった。最も焦点を当てられるのは、最も戦功の大きかった爆撃機の操縦士ベストだが、他にもこの戦闘までに何らかのエピソードを残す人物については、早いうちから描写を織り込んでいる。その姿勢自体は好感が持てるが、もう少し割り切って整頓すべきだったようにも思う。
 とは言え、もうひとり、情報将校レイトンにも注目した点は高く評価出来る。彼の言動を拾うことで、真珠湾攻撃の兆候自体は捉えていたこと、それがミッドウェイでの情報戦を演出したことが明確になっている。様々なドラマ、そして爆撃機と空母の戦いを大迫力で見せる一方、“情報戦”という面にも着目したことは高く評価出来る。
 実は本篇、いわゆる大手スタジオの作品ではなく、ローランド・エメリッヒ監督と音楽担当も兼任したハラルド・クローサーのふたりが資金集めに奔走して実現させた、インディペンデント作品なのだという。あとからそう知って驚くくらいに、戦闘シーンのクオリティが高い。視覚効果のスタジオが過去の縁と意欲に免じてディスカウントしてくれたお陰、とスタッフはコメントしているが、それがストーリー的には雑然としてしまった作品の価値を一段高めていることは間違いない。
 敵味方双方の道理を描いているために、不条理さを滲ませる一方、それ以上の深みを感じさせないので、ドラマとして薄く感じるのも事実だ。しかし、鑑賞するときは難しく考えずにその戦闘の迫力に魅了され、決着に清涼感も残す本篇は、戦争の実相を織り込みつつもエンタテインメントに仕上がっている。ストーリーの粗さも含め、視覚効果を多用した娯楽作品を積極的にリリースし続ける、ローランド・エメリッヒ監督らしい作品と言えよう。


関連作品:
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