「超」怖い話∞

「超」怖い話∞ 「超」怖い話∞』

樋口明雄

判型:文庫判

レーベル : 竹書房文庫

版元:竹書房

発行:2004年12月29日

isbn:4812419247

本体価格:552円

商品ページ:[bk1amazon]

 現在同じ版元から出版されている『「超」怖い話』シリーズだが、元々は勁文社で発刊されており、編者も現在の平山夢明氏で三代目になる。その平山氏の前任者であった著者が当時執筆した実話怪談のなかから選りすぐりのものを復刻収録した傑作選、『「超」怖い話0』に続く第二巻。

 前巻同様、昨今主流のスタイルとは趣の異なる怪談が味わえる一冊である。いちばん肝心な箇所については明言を避けつつ、しかしどのあたりの地域で発生した怪異なのかは書き留め、必要に応じて転換する視点や客観的な描写など、小説を思わせる文章で綴られた恐怖は、贅肉を極力削ぎ落とす昨今のスタイルとはまた別の味わいがある。

 初出では他の執筆者の文章に混じって分散されていたものを、同じ体験者のエピソードは続けて提示するという格好で纏めていることも特徴的だ。実はこの様式は近年の『新耳袋』でも行われているのだが、あちらはあくまでひと連なりのエピソードとして纏められる場合に限っており、語り手もしくは原因が一貫していない限りは一くさりに纏めることがない(纏めてあったとしても、視点人物の素性が曖昧で敢えて分かり難いようにしていたり、二篇・三篇程度で完結する場合がほとんど)。それを体験者ごとに分けていることで、それぞれにある傾向、或いは一貫しない怪異の不気味さが浮かび上がってくる。厳密なテーマを設定したストイックな作りもいいが、こういうのも一種の技術と言えるだろう。その分、エピソードによっては不必要と思える説明を加えねばならない――そうしないと次のエピソードの布石とならないからだ――場面もあり、エピソードとしての独立したイメージをやや損なう箇所もあったのが残念だった。

 前巻同様、『新耳袋』や平山氏編著に代わってからの『「超」〜』と比較するとオーソドックスで折り目正しい、古風な手触りの怪談が多い。そんななかで、「伸びる犬歯」や「助けてくれ!」のような異形の話が混じったり、「中村です」「白いシャツ」のような類例の思いつかないエピソードが突然飛び出してくるのも趣がある。特に「助けてくれ!」の訳の解らない薄気味悪さ、「白いシャツ」の怖いようでいながら妙にほのぼのした雰囲気など、この作者ならではと思わせる。

 ――と、違いやそこから生じる古めかしさばかり論ったが、近年書き継がれているシリーズを念頭から外して読むと、意外にも古い印象は受けない。結局のところ、真摯に恐怖や怪奇を綴っている限り、そこから匂い立つものは一貫しているということなのだろう。そういう意味でも、近年のシリーズに慣れ親しんでいる読者にとっても発見のある本だと思う。

 最後に、少々気になったことを一点。

「谷中奇譚」というエピソードが収録されている。谷中墓地そばにあるアパートに暮らす友人を訪ねて遭遇した怪異を綴ったものなのだが、どうしても合点のいかない箇所があった。

 話の途中、交番で道を訊ねた体験者に、警官は豊島区の地図を取り出して説明した、とある。だがこの谷中墓地、所在は台東区谷中であり、接しているのはせいぜい荒川区のみ、地図を見てもらえば解るが豊島区とはまったくかけ離れた場所にあるのだ。

 或いは豊島区界隈に谷中墓地という名前だけ同じ霊園があるのかも、と考えたが、ざっと調べた限り該当するような土地は存在しないし、仮にあったとしても作中の説明にあるような「広大な霊園」ではないと思われる。都内に同一名称の広大な霊園がふたつあれば、それだけで結構名前を知られていて不思議でないのだから。

 なまじ実名を使っているだけにこの齟齬はちょっと問題だろう。創作ならただの勘違いで済まされるが、体験者から直接に話を聞いた、という体裁を取っているこのシリーズでは、こうしたいい加減な記述そのものが信用を削ぐ。恐らく谷中か豊島区かどちらかの具体的な地名と墓地に近いという前振りがあって、そこから文章を膨らませようとした結果に筆が滑ったのでは、と察せられるが、ならば余計に気を遣って調べて欲しかったところ。

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