レイクサイド

レイクサイド 『レイクサイド』

東野圭吾

判型:四六判ハード

版元:実業之日本社

発行:2002年03月15日

isbn:4344007271

本体価格:1500円

商品ページ:[bk1amazon]

 姫神湖の畔にある別荘地で、次の春に中学受験を控えた子供達四人とその親四組、そして子供達の塾の講師が息抜きも兼ねた勉強合宿に赴いた。仕事のため妻たちに遅れて現地入りした並木俊介を追うように、忘れ物を届けに来たと偽ってやって来たのは職場の部下であり、愛人でもある高階英里子。ある理由から夜、俊介は別荘地を抜け出してホテルで彼女と落ち合う約束をしたが、何故か英里子は現れない。別荘に戻った俊介を待っていたのは、英里子の屍体と、妻・美菜子の「自分が殺した」という告白だった。子供達の将来に支障を来しては拙い、という藤間らの提案を受け入れて、俊介は屍体を姫神湖に投棄し事件の隠蔽を試みる。だが俊介には、どうしてそこまでして一同が美菜子を庇おうとするのか、また何故こうも親たちの結束が強いのか奇妙に思えて仕方ない。――みんな、いったい、何を隠している……?

 本は買うけど貯め込む数のほうが多い変人の筆者、東野圭吾氏の著書もかなり手許にあるのだけどきちんと読んでいるのはまだ半数にも満たない。きちんと読んでいてなおかつ印象に残っているのは『ある閉ざされた雪の山荘で』、『むかし僕が死んだ家』――癖のある閉鎖状況もの2本という始末。たまたま理由があって久々に読んだのもそういう作品であった、というのは、もしかしたら巡り合わせなのかも知れない。

 とまれ、印象的だったという二作を敢えて挙げたことからも察していただけるだろうが、私にはツボに嵌る作品だった。主人公が殺人を知ると同時に妻が犯人として名乗り出、事件としては隠蔽だけが残されているような状況ながら、随所にぞわぞわと皮膚にまとわりつくような違和感がある。同じグループであっても、たまたま事件の現場に立ち会わなかった者に対しては秘密を守り通そうとするが、その当人から何かを勘繰られ、或いは意味深に仄めかされ……シンプルな構造のなかに微妙な謎が幾重にも鏤められ、大きな波の少ないストーリーながら異様な牽引力を備えている。

 これだけ微妙な描写を積み重ねているのに、解決編に至ると実に明快に解き明かされる。しかも明快でありながら、決して一筋縄ではいかない決着でもあるという試みが意欲的だ。その結末自体が主人公である俊介に対していまひとつの決断を迫り、最終的に俊介がその道を選ぶに至るきっかけまでが用意されているのも巧い。

 実際には明確にされていない部分があるし、どう考えてもこれは登場人物にとって最善の解答ではあり得ない。だが、同じ立場に立たされたとき自分ならどうするか、と想像を巡らせたとき、この展開のあとでは恐らく別の選択はあり得ず、だからこそ答の不明確さと決断とが苦い余韻となって留まり続ける。

 手つきは極めて正統的な本格推理小説のそれであり、道行きは如何にも理路整然としているが、しかし結末は情感に満ちている。長篇としては短めだが、満足度の高い良作だと思う。

レイクサイド 新装版 なお、本編は『EUREKA』などを製作した青山真治監督によって『レイクサイドマーダーケース』の題名で映画化されており、2005年01月22日から全国で公開される。私はこのハードカバー版を発売当時に購入していたのでこちらを読んだが、映画化に先駆けて昨年末にソフトカバー・価格抑えめの新装版[bk1amazon]が刊行されているので、未読だけどハードカバーはちょっと、という方はこちらを手に取られることをお薦めします。

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