シティ・オブ・ボーンズ

シティ・オブ・ボーンズ 『シティ・オブ・ボーンズ』

マイクル・コナリー/古沢嘉道[訳]

Michael Connelly“City of Bones”/translated by Yoshimichi Furusawa

判型:四六判ハード

レーベル:Hayakawa Novels

版元:早川書房

発行:2002年12月31日

isbn:4152084626

本体価格:1900円

商品ページ:[bk1amazon]

 ローレル・キャニオンの住人が飼っている犬が森の中から拾ってきたのは、子供のものと思しき一本の人骨。通報を受けて現地に駆けつけたハリウッド署の刑事ハリー・ボッシュが更に発見した子供ひとり分の人骨は、彼が生前日常的に虐待を受けていた痕跡を留めていた。義憤に駆られたボッシュは相棒エドガーとともに捜査に着手するが、二十年近く前に殺害された少年の身許を特定することさえままならない。やがて、遺骨の埋められていた付近にかつて小児性愛者であったために検挙された経歴の持ち主がいたと判明、通常の手続としてボッシュたちは事情聴取に赴いたが、そのくだりをマスコミに「容疑者判明」と曲解して報道されてしまった。男はマスコミと警察への怨みの言葉を残して自殺、ボッシュは窮地に陥る……

 私はコナリー作品のうち『わが心臓の痛み』『チェイシング・リリー』の二冊を読んでおり、著者を代表する探偵役ハリー・ボッシュシリーズに触れるのは八作目となる本書が初めてのこと。いきなり八作目だったのは、映画化に合わせて読んだ『わが心臓の痛み』に痺れた、その直後に刊行されたからで、他に意味はない。

 解説によるとこのシリーズは毎回新たな原罪をボッシュに抱えさせているようで、その積み重ねを順に追っていった方が楽しめるようにも思うのだが、ひとまずそれほど問題はない。本書一冊でもボッシュの狷介さと愚直なまでの正義感はよく解り、警察やアメリカ社会とは相容れない苦しみが感じられる。

 相手が二十年も前の人骨であるだけに、捜査は遅々として進まない。代わりに物語の核をなすのは、ボッシュという男の言動と彼を取り巻く環境の変化になる。立場的には部下に当たる女性と恋に落ち、一方捜査では外部の無思慮な言動に翻弄されなかなか前へと進めない。捜査の過程ではかつての恋人が絡み、また現在の相棒への配慮も怠ることが出来ず、愚直なところのあるボッシュはじわじわと神経を磨り減らしていく。事件の経過以上に、ハリウッドという街で真っ当な警官であることの重圧を描くことに筆が割かれている印象だ。

 それ故なのか、肝心である少年の死の真相はいささか軽い。そこに辿りつくまでの経過の繋ぎ方は非常に巧妙で、僅かとはいえ張られている伏線を易々と悟らせず、きちんとサプライズにも結びついているのだが、期待するほどは大きくない。寧ろ、それまでの出来事をきちんと踏まえた終盤の展開の見事さと衝撃とに意味がある作品と言えるだろう。

 とにかく驚かされるのは事件の真相以上にハリー・ボッシュ自身が最後に選んだ結末だ。シリーズに触れるのは初めてである私でさえ、「今後いったいどうする気なんだ?!」という不安と興味とが湧いてきて、シリーズ次回作品の訳出が待ち遠しくなる。翻訳を担当された古沢嘉道氏のホームページでは(更新が長いこと滞っているようだが)既に、次作『Lost Light』、その次の『The Narrows』までが講談社文庫からの刊行を予告されているが、まだ出版には至っていない。それまでに旧作にも触れておこうか――と思わせる、非常な牽引力の備わった一級の娯楽小説でありました。

 ちなみに、二年前に刊行された本書をいま敢えて読んだのは、……今月、文庫版が刊行予定だから。もう読まないうちに廉価版が出るのにはいい加減慣れっこなんですが、それでもどーも悔しかったので発売前に読んだ次第。この感想を読んで気になったという方は文庫版 [bk1amazon]をご購入ください。この期に及んでハードカバーで読む阿呆は私一人で充分です。

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