『残酷な神が支配する』

残酷な神が支配する 10(小学館文庫) 残酷な神が支配する

萩尾望都

判型:文庫判

レーベル:小学館文庫
版元:小学館

発行:2005年03月10日

isbn:4091916201

本体価格:581円

商品ページ:[bk1amazon]

※データ・書影は10巻(完結巻)のものです。

 ……長かった。そして凄まじかった。

 サスペンスとしては、これ以上ないところまで追い込まれていく中盤までが出色で、それ以降はジェルミとイアンの愛憎が混濁する心理ドラマに変質していき、テンポが微妙に変わる。けれど通底音は常に同じだったのだ、と、あの短くも強烈なクライマックスで悟らされる。その瞬間、入り乱れていたすべての音が一斉に重なり荘厳な響きとなる。正直なところ後半三・四巻ぐらいはちょっと長すぎるように感じたのですが、なるほどあの紆余曲折がないとこのラストには辿り着けなかったわけだ。

 すべてに決着がついたわけではなく、その後もジェルミは冬が来るたびに“遭難”し、イアンもまた巻き込まれていく。更に外枠では悲劇が果てしないスパイラルを描き続ける。ただ、それでも彼らは生きることを止められはしないのだし、生き続けていくことは出来るだろう。繰り返すのはなおも残酷な神が連鎖的に顕現する迷宮ではあっても、少なくとも光は注いでいる。

 ふんだんな精神分析学の知識を注ぎ込みながら晦渋さはなく、依然として悲劇でしかない物語の結末にそんな光明を感じさせてしまう手腕。やっぱりこの作者は凄い。漫画では珍しく(短めとはいえ)感想をアップしてしまうくらいに惚れました。完結を待ったりしないで素直に親本のときに読んでおくべきだった……

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