一週間のしごと

一週間のしごと 『一週間のしごと』

永嶋恵美

判型:四六判仮フランス装

レーベル:ミステリ・フロンティア

版元:東京創元社

発行:2005年11月30日

isbn:4488017207

本体価格:1800円

商品ページ:[bk1amazon]

 今年高校一年の青柳菜加には、何でもかんでも拾ってくるという悪癖がある。そのたびに処置に困っては隣家に住む幼馴染みの開沢恭平を頼ってくるのだった。だが、犬や猫、アルマジロ程度ならまだしも、それが親に置き去りにされた子供ともなると厄介どころの話ではない。しかも、菜加が“預かって”いるあいだに、その子供の家と思しいアパートで集団自殺事件が発生、菜加の警察嫌いもあって返すに返せなくなってしまった。拾うだけ拾ってきてあとの考えがまるでない菜加のこと、必然的に考え行動に移すのは恭平の役割になる。こうして少年たちの、あまりに長い一週間が始まったのだった……

 読みながら思い浮かべていたのは、『チョコレートゲーム』あたりの岡嶋二人であった。あれに現代的な少年少女の風俗で彩りを添えたような印象がある。……なにぶん『チョコレートゲーム』を読んだのがだいぶん昔のことなので、断言は出来ないが。

 何でもかんでも拾ってきてしまう菜加という少女を中心に、個性的だが実在感のあるキャラクターが簡潔ながらしっかりと描かれ、その上に謎に満ちた出来事が積み重ねられる。いきなり大上段から謎が繰り出されるわけでも、犯人捜しのような大義名分のある目的が提示されるわけでもなく、突如降りかかってきたトラブルに懸命に対処しているうちに謎が浮き彫りとなり、解決を迫られる、という組み立ては導入こそ地味だが牽引力に富み、実に読みやすい。

 秋葉原を拠点とするオタクの生態や現代の高校生像の両極的な描写、携帯電話のGPSサービスにパソコンまわりの知識など、現代的な要素を多数盛り込んでいることで、作品に独特の活気を齎していることも特筆しておきたい。たとえば十数年後に読んだら過剰に時代を感じさせマイナスとなるかも知れないが、少なくとも現代に読むぶんにはその即時性が作品の魅力として存分に活きている。

 そうした現代的な要素をうまく膨らませて構築された事件の全体像もまたいい。その醜悪さが現代の病巣を照らし出す社会派の側面をも本編に齎しているが、しかし醜悪であるぶん、読み終わったあとで主人公格である開沢恭平や青柳菜加の、まだまだ青臭いけれど真っ当な姿勢に好感を抱かされ、またそれが爽やかな余韻にも繋がっている。

 個人的には、あれだけ込み入った背景を用意したのだから、もう少し恭平たちにその実態を想像・推理させる材料を早く与えて、知的興奮を催させる場面を作って欲しかったと感じるけれど、これはあくまで私自身の要望。大枠では読みやすさにおいても読み応えにおいても文句のない、現代をよく映した青春ミステリである。

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