『ホステル』

ホステル 無修正版 [Blu-ray]

原題:“Hostel” / 監督・脚本:イーライ・ロス / 製作:イーライ・ロス、クリス・ブリッグス、マイク・フレイス / 製作総指揮:クエンティン・タランティーノ、スコット・シュピーゲルボアズ・イェーキン / 撮影監督:ミラン・チャディマ / 特殊メイク:グレゴリー・ニコテロ、ハワード・バーガー / プロダクション・デザイナー、衣裳デザイン:フランコ=ジャコモ・カルボーネ / 編集:ジョージ・フォルシーJr.,A.C.E. / 音楽:ネイサン・バー / 出演:ジェイ・ヘルナンデス、デレク・リチャードソン、エイゾール・グジョンソン、バルバラ・ネデルヤコーヴァ、ヤナ・カデラブコーヴァ、ヤン・ヴラサーク、リック・ホフマン、ジェニファー・リム、三池崇史 / ネクスト・エンタテインメント/ロウ・ナーヴ製作 / 配給:Sony Pictures Entertainment

2005年アメリカ作品 / 上映時間:1時間33分 / 日本語字幕:? / R-18

2006年10月28日日本公開

2009年7月3日DVD日本最新盤発売 [bk1amazonBlu-ray Discbk1amazon]

公式サイト : http://www.hostelfilm.jp/ ※閉鎖済

Blu-ray Discにて初見(2009/12/05)



[粗筋]

 パクストン(ジェイ・ヘルナンデス)とジョシュ(デレク・リチャードソン)のふたりは、ヨーロッパ各国を歴訪する旅に出ていた。目当ては麻薬とセックス――このあいだ恋人に振られたばかりのジョシュにとっては傷心旅行も兼ねていたが、いまだかつての恋人に未練たらたらで、娼館を訪ねても逃げ出す始末であり、パクストンや途中で知り合い合流したオーリ(エイゾール・グジョンソン)は半ば呆れている。

 オランダ・アムステルダムで飲み明かした一同が、門限を破りホステルから閉め出されて途方に暮れていたとき、家に上げてくれた男――この男の言葉が、パクストンたちに次の目的地を示唆した。男いわく、いま女を求めるならスロヴァキアがいい。戦争のために男の数が減り、女たちは性欲に飢えている。食いたい放題だ、と。

 男の言葉に乗せられたパクストンたちは、電車とタクシーを乗り継いで、ブラティスラヴァという街に赴いた。逗留したホステルはすべて相部屋だと言われ一瞬失望したが、ルームメイトは美貌の女二人組、しかも噂通りに開放的で、3人はそれぞれに性の快楽を堪能する。

 だが翌日から、にわかに様子がおかしくなった。オーリが突然行方をくらましたのである。同じホステルに泊まる日本人の女性・カナ(ジェニファー・リム)から、オーリとカナの友人・ユキが揃って映った写真とともに送られた、“さようなら”とだけ記されたメールを見せられ、事情を訊かれるが、パクストンにもジョシュにも応えようがない。

 ――そして翌る朝、今度はジョシュが消えた。

[感想]

 本篇はその容赦ない残酷描写が話題を博し、極めて高いレーティングが施されたにも拘わらずスマッシュヒットを成し遂げた作品である。

 しかしこの作品、必ずしも暴力描写そのものは見所ではない。確かに正視したくないような醜悪なシーンも幾つかあるが、観る側も痛みを感じるような箇所、肉体に直接危害を加えているような場面については、カメラが直接その部分を撮すことはあまりない。行為そのものよりも、効果音や役者の反応によってその衝撃、痛みを表現しているものがほとんどで、その手法はごくオーソドックスなホラー、スプラッタの手法をなぞっている。量的に著しいのは確かでも、個々は決して突出して過激というわけではない。――終盤、主人公格の人物が“痛みを取り除くため”にした行為は直接撮しており、ここがいちばん観ていて辛いほどだったが。

 本篇が一瞬、爆発的に受け入れられたのは、暴力描写の過激さよりもむしろ、その衝撃を最大限効果的に見せるための構成が優れていたことと、終盤の展開に不自然さを感じさせない、かつカタルシスを齎すような伏線の巧みさに因ると思われる。

 序盤においては、暴力的な表現は皆無に等しい。ヨーロッパを旅するバックパッカーの3人が訪れる先々で快楽、或いは失恋の傷を癒す機会を求めている様がユーモラスに、スタイリッシュに描かれており、そこにやがて彼らを襲う悪夢の片鱗さえ窺うことは出来ない。このあまりに平穏すぎるくだりが、逆に終盤の救いようのない絶望感を増幅している。

 また本篇は、決して安易に唐突に暴力まで話を持ち込むことなく、自然な経緯を組み立てていることでも出色だ。オランダを旅していた3人がなぜ悲劇の舞台となるスロヴァキアを訪れたのか、なぜ彼らがこんな事態に巻き込まれたのか。惨劇に巻き込まれる順序にしても、必然と偶然をうまく織り交ぜて、不可避の成り行きを作りあげている。この、流れを考慮した話運びはそのまま、終盤での緊張感漲る逃走劇から、虚無的なカタルシスを醸成する展開まで巧妙に繋がっており、実に無駄がない。

 非情なゴアムーヴィーとして作られていながら、しかし本篇はひとつの主題を明確に辿っているので、作品としての奥行きさえ感じさせる仕上がりとなっている。

 この作品には、“快楽を追求する”という人間の本能の、陽性な部分と陰性の部分を等しく抉り出そうとする意思が感じられる。視点人物となるバックパッカーの青年たちが追い求めるのは淫靡だが陽性、しかしやがて彼らに悪夢を齎す別の者たちが追い求めるのは病的で陰性の欲望だ。両者は表裏一体であり、それをくるりと反転させるような構成を選んだ本篇には、だからこそ異様なリアリティがあり、犠牲となった者が激烈な逆襲に及ぶクライマックスにカタルシスが色濃く、そして結末の空虚さが際立っている。

 なまじっかのサスペンスでは、これほど重い手応えのある余韻を齎すことは出来ない。命が虐げられ、消費されていく様を容赦なく描いているからこそ、本篇は無視できない存在感を示すに至ったのだろう。

 直接描写している箇所が少ないとは言っても、痛みを生々しく伝える表現の数々は、耐性のない人にとっては相当に辛い。どれほどその描写の巧みさ、価値の高さを説いても、犯罪を無造作に採り上げたり、ある国の国民性を貶めたりする作り方を認められない人には受け入れがたい代物だ。だが本篇はむしろ、そういう人々に拒絶されることを良しとした上で、表現を研ぎ澄ませようとしており、そこにはいっそ潔ささえ感じる。実に恐るべき怪作なのだ。

関連作品:

グラインドハウス

イングロリアス・バスターズ

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