怪し会 参 於松栄山了法寺

 遅ればせながら、28日参加して来たイベントのレポートです。

横に並んでいるから、まだいい。

 この『怪し会』というイベントは、だいぶ前から『新耳袋』のファンであり、トークライブにも当初は一般客に混じって参加されていた声優・俳優の茶風林氏が、怪談を聴くにはうってつけのロケーションで、酒を舐めつつ朗読を堪能する、という趣旨で企画したものです。トークライブで知って以来ずっと興味があったのですが、時間とか懐具合の都合でなかなか参加できず、三回忌、もとい3年目の今年ようやく参加が叶いました。このところトークライブにときどきお付き合いいただいている某氏に、このためだけにわざわざ大阪から来ていただいたりして。

 今回は、往復のバスツアーつき、というものに申し込んであったので、新宿駅西口側の某所からバスにて移動。舞台となる八王子は松栄山了法寺、ご存知の方も多いでしょうが、昨今“萌え寺”として名を馳せている仏閣です。往路にはその象徴である案内図の萌え絵を手懸け、先日は寺のテーマソングまで担当したとろ美さんがガイドとして同乗していました。会場である了法寺にまつわる由縁に、オタク業界絡みの怖い話をお披露目しつつ、随所で参加者も巻き込んでの1時間はけっこー短かった……というか、八王子って近いな。

萌え案内板。

 到着するなり、とりあえずお約束として案内板を撮影。寺の敷地は広くないので、当初この寺で異彩を放っていたのは案内図だけだったと思われますが、今ではグッズも各種販売しており、最近は痛車まで自作してしまったようで、本格的に異空間が育っている様子。そんな特色のある土地ではないので、本当に妙な雰囲気でした。

 とは言い条、舞台として用いられる本堂の佇まいはちゃんと――というのもアレですが、厳粛です。前方は座布団に座り、3列目からは椅子に座って拝聴する、という具合。座席には茶風林氏厳選のお酒と軽い肴が用意されている。アルコールを嗜まない人向けに、酒の仕込み水を提供するサービスもしていましたが、私はちゃんとお酒を味わわせていただきました。しかも2本も――小瓶ではありましたけど。

暗いのです。

 そして18時頃からいよいよスタート。まずは住職による法要。あまりにファニーな要素に見過ごしてしまいますが、ここは日蓮宗なのです。当然のように途中で“南無妙法蓮華経”のお題目を参加者一斉に唱える場面が入る。風変わりとも言えますが、ある意味本格派です。否応なくムードが高まる

 法要が済むと、蝋燭の形を模したライトを携えた出演者が、「ほ、ほ、螢来い」と歌いながら祭壇の前に勢揃い。全員が並んだところで、突如小さく笑いはじめ、それが四方八方からの哄笑に発展していくくだりで、個人的にはもうかなり感動してました。小さい劇場を用いる芝居などではこういう立体的な演出は決して珍しくありませんが、純粋な朗読劇だとばかり思っていたので、かなり意表をつかれました。

 以後、メンバーを入れ替えつつ、まずは5本のエピソードを朗読。すべて『新耳袋』及び『隣之怪』からの引用ですが、ちゃんと脚色を施し、人物を振り分けた作りは、まるで音声ドラマを目の前で披露されているような感覚。但しここでも、客席後方に控えたキャストが不意打ちをかけてきたり、あらかじめ収録した効果音や会話を用いることで、独特の臨場感を構築している。素晴らしく聴き応えがあります。観客はすっかり引き込まれ、しわぶきも遠慮がちな中なので、正直酒を舐めたり肴をつまんだり、というタイミングには悩みましたけど。

 前半の5話でいちばん印象に残ったのは、最後に披露した『団地』でした。隣の部屋で起きた事故を契機とする、なかなかに陰惨な話なのですが、携帯電話をツールとして用いながらまるで古典怪談の趣さえある。ある意味ベタな締め括りも、この朗読劇という形式でやられると強烈でした。

 15分間の休憩のあいだは茶風林氏がマイクの前に陣取り、今回用意したお酒について解説、ついでに有料のおかわりのお薦め。私も思わず乗せられて追加してしまったわけです。解説のあとは、当然のように居合わせていた原作者・木原浩勝氏も参加して、少々張り詰めていた空気をいい具合に解してくださいました――トークライブもそうですが、基本的に笑いを取らないと気が済まないようです木原氏は。

 話し足りない様子だった木原氏を半ば追い出すようにして、第2部の開始。後半では、基本的に1人語りとなるエピソードを挟んでいるため、前半以上にこういうスタイルならではの演出の妙が光っていました。

 トリを飾るエピソードは、このイベントのために木原氏が書き下ろした新作です。このところほとんど欠かさずトークライブに参加している私には聴き覚えのある話でしたが、これも複数の人物を動員して再現されると、やっぱりインパクトが強い。前半のトリを飾ったエピソードとは対照的に、恐ろしくも心温まる物語を、情感たっぷりに演じきって、終幕。

 ちなみに、3日間行われたこのイベントの、土曜日夜の部という回を私が選択したのは、金曜日夜の部とこの回に限り能登麻美子氏が参加していた、という理由からだったりします。まあ、いざ鑑賞していると、そんなこと気にすることもなく没頭してましたけど。

 終演後はふたたびバスに乗って新宿へ。酒肴が想像以上に軽かったので、遅めの夕食を取って、お付き合いいただいた某氏と別れました――しかし、開いている店を適当に選んだら、屋号が“ねぎし”だったのはこれ如何に*1

 それにしてもこの企画、トークライブでの告知の様子から察するに、毎年、お寺を探すのに苦労されているみたいですが、個人的にはもう了法寺を常小屋にしてしまってもいいような気が。色んな意味で企画に合ってますし。

 まあ、何処を会場に選ぶにせよ、これは今後も都合がつけば参加したいところです。予想していたよりも遥かに凝った演出で見応え(聴き応え、とは敢えて言わない)がありましたし、トークライブはやもすると笑いが先行してしまうので、きっちりと“怖さ”が堪能できるだけでも嬉しいのです。

*1:新耳袋』の名称のもととなった江戸時代の書籍『耳袋』をまとめたのが根岸鎮衛

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