『スネーキーモンキー/蛇拳』

蛇拳 [DVD]

原題:蛇形刀手 / 英題:“Snake in the Eagle’s Shadow” / 監督:ユエン・ウーピン / 脚本:クリフォード・チョイ、ウー・シーユエン / 製作:ウー・シーユエン / 撮影監督:チャン・フイ / 照明:リン・ウェイ / 美術:タン・ユエンタイ / 編集:ブン・フンユイ / 衣装:クン・チャンカイ / 武術指導:シュウ・シア、ユエン・ウーピン / 音楽:チョウ・フーリャン / 出演:ジャッキー・チェン、ユエン・シャオティエン、ウォン・チェンリー、ディーン・セキ、ワン・チアン、シュウ・シア、チウ・チーリン、フォン・ハクオン / シーゾナル・フィルム製作 / 配給:東映

1977年香港作品 / 上映時間:1時間35分 / 日本語字幕:?

1979年12月1日日本公開

2009年12月2日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon]

DVD Videoにて初見(2011/06/08)



[粗筋]

 ガンフー(ジャッキー・チェン)はとある武術道場でカンフーを学んでいたが、もともとの師範が道場を離れ、代わりにやって来た師範に嫌われてしまい、最近は道場の掃除や雑用、師範が生徒を勧誘するときのやられ役に使われている。こっそり形を盗み見て学ぼうとしても妨害され、鬱屈した日々を送っていた。

 ある日ガンフーは他派の道場の門前で、ひとりの老人(ユエン・シャオティエン)が寄って集って襲われている場面に遭遇する。ガンフーは自分の弱さを顧みずに飛び出して庇ったが、予想外に強い老人の手助けによってどうにか切り抜け、共々にその場を脱出した。

 実はこの老人、蛇形拳という流派の達人であった。遙か昔から対立する鷹爪拳の一派に弟子が相次いで殺害され、伝統を守るべく物乞いのフリをして各地を彷徨い歩いていたのである。

 追っ手が迫っていることに気づき、老人は夜が明ける前にいちど彼のもとを離れたが、ガンフーの優しさに心やすらぎ、彼の道場での待遇に胸を痛め、修行の手懸かりを彼に与えて立ち去る。

 老人が去ったことに落ちこんだガンフーだったが、すぐに彼の意図に気づき、熱心に修行に励んだ。もともと雑務で体力をつけ、やられ役の繰り返しで打たれ強くなっていたガンフーは瞬く間に進歩を遂げる――

[感想]

 本篇を観ると、つくづくロー・ウェイ監督とジャッキー・チェンとは反りが合わなかったのだ、と思えてならない。売れたスタイルに固執し、刹那的なインパクトにこだわるロー・ウェイ監督の手法がまったく間違っていたとは言わないが、ブルース・リーと同じキャラクター、売り方を踏襲しても限界があることを早く察知し、独自のスタイルを模索し続けていたジャッキーと噛み合わなかったことだけは確かだろう。

 その、双方にとって不幸な繋がりが、本篇で初めて解消された。2作限りのレンタルという契約ながら、『レッド・ドラゴン/新・怒りの鉄拳』での再デビュー以降初めて他の製作会社と組む機会を与えられたジャッキーがまず出演した本篇で、いきなりこれほどの痛快作を繰り出したのは、その鬱憤が如何に溜まっていたのか、という証明なのかも知れない。

 まだ骨格にはシリアスの面影を留めている。対立する流派の殲滅を望んで、執拗に残党を追う男達と、その追跡から逃れるために物乞い同然の姿に身をやつす師匠、という構図だけを切り取ると、どうしても深刻な物語が透け見えるし、ジャッキー演じる主人公ガンフーの境遇も不幸そのものだ。

 だが、その振る舞いにはほとんど深刻さは窺えない。ガンフーは虐げられながらも、指導の様子を隙見してこっそり自分もものにしようとする逞しさを持っている。追われる師範も、どちらかと言えばその生活を謳歌しているような雰囲気があって、悲愴感は皆無に等しい。そして、彼らの戦う様子や修行方法は、ほぼコメディのスタイルを基調としていて、観ているだけで愉しくなる。

 ロー・ウェイ監督の作品群と比較して、本篇が顕著に優れているのは、アクションの意図や変化が非常に明瞭になっていることだ。いちど去る直前、老人がガンフーのために残した修行法とその成果もさることながら、蛇形拳というスタイルの利点と鷹爪拳との相性の悪さ、それを打破するためにガンフーが用いたアイディアの有効性、こうしたものが非常にすんなりと飲み込める。ロー・ウェイ作品ではせいぜい修行の成果、程度にしか幅をつけることが許されなかったが、作品や状況によって拳法のスタイルを意識して変えることの出来るジャッキー・チェンの優れた能力が遺憾なく発揮される趣向だ。

 既に『蛇鶴八拳』『カンニング・モンキー/天中拳』で用いていた、コミカルな戦い方も、本篇はぐっと洗練され、様になっている。いささか演出をしすぎて上滑りしている箇所もまだまだ残っているが、アクションの構成自体はほぼ完成されたと言っていい。激しく華麗、しかし観ていて愉しい、というのはもはやジャッキー作品の盛況を経て定着したスタイルだが、順を追って観ていくと、この境地に辿り着くまでは決して容易でなかったことが窺えて、感慨深くさえある。

 もうひとつ特筆すべきは、師弟の交流に滲む優しさ、暖かさだ。ジャッキーがこれ以前に出演した作品は、修行こそある程度描かれていても、師弟の関係性は極めて有り体か、型通りの希薄なものがほとんどだった。それに対して本篇のガンフーと老人のやり取りの、なんと快いことか。友人としてガンフーを思いやり、技を伝授したが、逃走しているが故の事情から“師匠と呼ぶな”と一線を引く。事情を知らないながらも老人の苦衷を察してそれに従い、しかし間違いなく老人に対して師同然の敬意を示すガンフー。この信頼関係が昇華されるクライマックスは、戦い方がユニークであるだけに笑いも誘うが、しかしドラマを前提として鑑賞すると感動的でさえあるのだ。この、武術の心を伝えると共に絆を結ぶ、という師弟関係の描き方は、ジャッキーが師匠の側に立った『ベスト・キッド』でも踏襲されているが、その基本が築かれたのは本篇と見ていいように思う。

 本当の意味でジャッキーが初めてコメディとの相性がいいことを自ら確信したのは恐らく『蛇鶴八拳』であろうし、真の出世作が、日本でも初紹介作となったこの次の『ドランクモンキー/酔拳』であることは疑いない。しかし、のちに繋がるスタイルのほとんどを完成させたのは間違いなく本篇だろう。ほぼ制作順に辿って鑑賞していたからこそ断言できる、昇竜の如き勢いが、この作品には漲っている。

関連作品:

マトリックス・リローデッド

マトリックス・レボリューションズ

キル・ビル Vol.1

ドラゴン・キングダム

少林寺木人拳

蛇鶴八拳

カンニング・モンキー/天中拳

ベスト・キッド

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