『ハートブレイク・リッジ/勝利の戦場』

ハートブレイク・リッジ 勝利の戦場 [DVD]

原題:“Heartbreak Ridge” / 監督、製作&主演:クリント・イーストウッド / 脚本:ジェームズ・カラバトソス / 製作総指揮:フリッツ・メインズ / 撮影監督:ジャック・N・グリーン / プロダクション・デザイナー:エドワード・C・カーファグノ / 編集:ジョエル・コックス / 舞台装置:ロバート・R・ベントン / 音楽:レニー・ニーハウス / 出演:マーシャ・メイソン、マリオ・ヴァン・ピーブルズ、エヴェレット・マッギル、モーゼス・ガン、アイリーン・ヘッカート、ボー・スヴェンソン、ボイド・ゲインズ、アーレン・ディーン・スナイダー、ヴィンセント・アイリザリー、ラモン・フランコ、トム・ヴィラード、マイク・ゴメス、ロドニー・ヒル、ピーター・コッチ、リチャード・ヴェンチャー、ピーター・ジェイソン、J・C・クイン、ベゴニア・プラザ、ジョン・ホステッター / マルパソ製作 / 配給&映像ソフト発売元:Warner Bros.

1986年アメリカ作品 / 上映時間:2時間10分 / 日本語字幕:岡枝慎二

1987年1月17日日本公開

2010年4月21日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon]

DVD Videoにて初見(2012/05/17)



[粗筋]

 20年以上、アメリ海兵隊に所属するトム・ハイウェイ一等軍曹(クリント・イーストウッド)は、前々からの志願が受け入れられ、かつて所属していた第二海兵師団第二偵察大隊第二偵察小隊への復帰が認められた。

 大規模な戦闘が行われなくなって久しく、部隊の空気はかつてハイウェイが第一線で活躍していたころとはまったく違ったものとなっていた。第二偵察小隊はお荷物扱いの兵が寄せ集められ、指揮のかけらも感じられない。上官のパワーズ少佐(エヴェレット・マッギル)にしてもリング少尉(ボイド・ゲインズ)にしても、士官学校出の頭でっかちで、命令系統の徹底しか頭にない。

 ロートルと侮る小隊の兵士たちを、ハイウェイは徹底して鍛え直すことにした。早朝に召集し、肉体自慢の若造たちを持久力で翻弄する。スティッチ・ジョーンズ伍長(マリオ・ヴァン・ピーブルズ)を筆頭に、部下たちは反発するものの、ハイウェイのタフさに圧倒される。そして次第に、ハイウェイが決して嫌がらせで彼らを鞭打っているのではない、と気づくと、少しずつ心酔し、意識を変えていくのだった……

[感想]

 本篇のクライマックスで描かれる“民間人の救出”は、“グレナダ侵攻”と呼ばれる実際の事件をもとにしているという。国際的には、批判の多い軍事活動であったようだが、本篇のなかではそういう側面には一切触れていない。戦争映画であるからには、賛美なり批判なり、何らかの意志が必要だ、という態度のかたには大いに不満のある内容だろうが、しかしそもそも本篇は戦争の是非を問う、といった意図で作られていない、と私は考える。

 この作品は、戦争映画というよりは、幾つかの戦争を経たあと、長い平穏にあった海兵隊、というもののアメリカにおける位置づけを、一種青春映画的な手法で描き出したものであり、クリント・イーストウッド監督・出演作品の流れのなかで言えば、先行する『戦略大作戦』のような作品ではなく、『ダーティファイター』や『ブロンコ・ビリー』のような人情路線の延長上にあるものと捉えるべきではなかろうか。

 そう解釈すると、“グレナダ侵攻”という事件のいささか安直な扱いにも納得がいくはずだ。本篇の狙いはあくまで、過去に功績を上げながらも多くの戦友を失った老兵が、長い平和のなかにあって目的意識を失っている若い兵士に、戦場へ赴くことの誇り、生き延びることの大切さとその方法を教えるその姿を描くことにある。“グレナダ侵攻”という事件が先にあって構想が生まれたのか、構想段階で現実の出来事が盛り込まれたのかは知らないが、恐らく本篇はたまたまそこに実戦があったから、クライマックスの舞台として利用したに過ぎないのだろう。あと数年遅かったなら、ここで戦場として用いられたのは湾岸戦争だったかも知れない。

 だから、政治的な意義、という観点からはどうしようもなく浅はかなのだが、人情ドラマとしては非常にそつがない。主人公であるハイウェイ軍曹の人物像を明確に描き出したあとで、若い海兵隊たちの軽薄さ、士官たちの頭でっかちな価値観を、ユーモアをふんだんに鏤めて描き出す。様々な出来事を通して、若い兵士たちがハイウェイの言動の意味を理解し、彼に親しみを覚え尊敬の念を抱いていく過程を丁寧に、しかし説得力充分に紡ぎあげている。組織に所属しながらもアウトロー的な立ち位置になってしまった主人公の姿は『ダーティハリー』などに通じる印象だが、そこに1本通された芯に若者たちが共鳴していくくだりは、人情を織りあげてきた一連の作品を手懸けてきたからこその洗練が窺える。

 そうして成長してきた兵士たちと、ハイウェイとのあいだに結ばれた絆を決定的に描くために、実戦のパートはどうしても欠かせない。そのために、たまたま最も近い位置にあった“グレナダ侵攻”がモチーフに用いられた、と私は考える。もしここで、あの出来事の意義まで問うてしまえば、主題がぶれてしまう結果に繋がったはずだ。

 故に、私は本篇を戦争映画ではなく、1978年の『ダーティファイター』から始まった人情路線の総決算であり、監督クリント・イーストウッドが研鑽を重ねた末に完成させた、快い軽さのある好篇と捉える。なまじ巨匠としての地位が定着してしまったいまでは却って作り得ない、この頃のイーストウッド作品の魅力が絶妙に織りこまれた作品である。

関連作品:

ダーティファイター

ダーティファイター/燃えよ鉄拳

ブロンコ・ビリー

センチメンタル・アドベンチャー

荒鷲の要塞

戦略大作戦

父親たちの星条旗

硫黄島からの手紙

グラン・トリノ

M★A★S★H マッシュ

戦争のはじめかた

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