『キック・アス ジャスティス・フォーエバー』

TOHOシネマズ有楽座、外壁の看板。

原題:“Kick-Ass 2” / 原作:マーク・ミラー、ジョン・S・ロミタJr. / 監督&脚本:ジェフ・ワドロウ / 製作:マシュー・ヴォーン、アダム・ボーリング、タルキン・パック、デヴィッド・リード / 製作総指揮:マーク・ミラー、ジョン・S・ロミタJr.、スティーヴン・マークス、クローディア・ヴォーン、ピエール・ラグランジェ、トレヴァー・デューク・モレッツ / 撮影監督:ティム・モーリス・ジョーンズ / プロダクション・デザイナー:ラッセル・デ・ロザリオ / 編集:エディ・ハミルトン / 衣装:サミー・シェルドン・ディファー / キャスティング:レグ・ポアースコット=エドガートン,CSA / 音楽:ヘンリー・ジャックマン、マシュー・マージェソン / 出演:アーロン・テイラー=ジョンソンクリストファー・ミンツ=プラッセクロエ・グレース・モレッツジム・キャリー、モリス・チェスナット、クローディア・リー、クラーク・デューク、オーガスタス・ブリュー、スティーヴン・マッキントッシュ、モニカ・ドラン、ロバート・エムズ、リンディ・ブース、ドナルド・フェイソン、オルガ・クルクリーナ、トム・ウー、アンディ・ナイマンダニエル・カルーヤジョン・レグイザモイアン・グレン / 配給:東宝東和

2013年イギリス作品 / 上映時間:1時間43分 / 日本語字幕:松崎広幸 / 字幕監修:町山智浩 / R-15+

2014年2月22日日本公開

公式サイト : http://kick-ass-movie.jp/

TOHOシネマズ有楽座にて初見(2014/02/25)



[粗筋]

 格別な力もなく、正義を愛する心だけでヒーローを志し、多くのフォロワーを生んだキック・アス(アーロン・テイラー=ジョンソン)は、だが間もなく表舞台から姿を消した。

 彼と共に活躍したヒット・ガールことミンディ(クロエ・グレース・モレッツ)は、まだ暗躍を続けている。彼女を鍛え、共に夜の世界で正義の鉄槌を振るっていた父ビッグ・ダディを喪ったあと、父のかつての同僚である刑事マーカス(モリス・チェスナット)に引き取られ、表面的には普通の女の子になったが、出席簿を改竄して学校をサボり、未だに夜ごと、覆面のヒーローとして、悪党たちを血祭りに上げている。

 やがてキック・アスことデイヴも、怠惰な毎日に嫌気が差してきた。世の中には自分のあとを継いで街を守る覆面のヒーローが大勢誕生したが、未だにキック・アスの再来を求める声はある。そして遂に、その声に応える決意をした。

 以前の戦いを通じて、自分程度の戦闘能力では悪党に太刀打ち出来ないことを痛感していたデイヴは、ミンディに懇願し、改めてヒーローとしての手解きをしてもらうことにした。ビッグ・ダディ仕込みのスパルタ教育は、痛みに鈍感なデイヴも悲鳴をあげるほどだったが、前よりも滾る理想を胸に宿したデイヴは音をあげなかった。ミンディもそんな彼を、次第にパートナーとして認めるようになる。

 そしていよいよ行われた実地訓練のときに、事件は起きた。ミンディが未だヒット・ガールとして活動していることが、マーカスに勘づかれてしまったのだ。父の遺したメモで彼女を託されたマーカスは、もう普通の女の子にならなければいけない、とミンディを諭し、やむなく彼女も忠告を受け入れる。

 こうして、復帰する間もなく相棒を失ってしまったキック・アスは、新たに仲間を求めることにした。折しも、もともとは悪人の用心棒、しかし宗教に目醒めて改心したスターズ・アンド・ストライプス大佐(ジム・キャリー)という人物が、“ジャスティス・フォーエバー”と名付けた、正義の軍団を組織しており、キック・アスもそこに加わる。

 だが一方その頃、キック・アスによって辛酸を舐めたレッド・ミストことクリス・ダミコ(クリストファー・ミンツ=プラッセ)も、新たな仮面と共に復活の時を窺っていた――

[感想]

 前作『キック・アス』はちょっとした事件だった、と今になって思う。アメコミ・ヒーローはもはやハリウッド大作映画の最重要コンテンツに成長したが、理想も能力も常人離れしていて、いつしか戦う次元が日常から遠ざかりつつある。マーヴェル・ヒーローを一堂に集めた『アベンジャーズ』は面白いし、シリアス・ヒーローの極地で生まれた『マン・オブ・スティール』のような突き抜け方も素晴らしいが、しかしどんどんイマジネーションのみの世界に発展していくような感があった。そんな中にあって、特殊能力どころか身体能力は並、財産的にも恵まれていないような人物が、志だけでヒーローになろうと奮闘する、という着眼は見事だった。それをユーモアと、青春映画のエッセンスで巧みに彩り仕上げた『キック・アス』は、ヒーロー映画の系譜にくっきりとした足跡を残した、と言えよう。

 本篇はその3年振りとなる続篇である。確かに1作目で“引き”は残されており、大ヒットを受けてすぐに製作が決定していたようだが、しかし他方で、充分すぎるほどにテーマを突き詰めていたあの物語をどう引き延ばすか、というのは決して楽な課題ではなかったはずだ。しかも、前作のヒットにより引く手あまたとなったマシュー・ヴォーン監督は製作のみに退き、新しい監督が着任した。プレッシャーははっきりと感じていたのではなかろうか。

 だから――というわけでもないだろうが、率直に言えば隙はある。最も如実なのは、折角盛り込んだ新たな要素がおおむね掘り下げが充分に出来ていないことだ。

 特に如実なのは、デイヴの父親や、スターズ・アンド・ストライプス大佐とキック・アスとの関係である。どちらも物語の展開において重要な位置づけになっているのに、関係性の描き方が少々さらっとしているために、いまひとつ効果を上げていない。前シリーズから引き継いだ暴力性に奉仕させるにしても、それこそ余計に人物の輪郭を際立たせておいて欲しかった。とりわけ大佐は、コメディ演技から出発してアカデミー賞ノミネートまで果たしているジム・キャリーを起用しているだけに、本篇の大佐の個性が生かし切れていないことはいささか勿体なく思える。

 大佐が結成した“ジャスティス・フォーエバー”に関わるヒーローたちの個性やエピソードにしても、ある意味“頭数”が重要であったから、多少はなおざりに扱われるのも仕方ないが、ストーリーを考えるともうちょっと引き立ててもいい要素は少なくなかった。その要素ひとつひとつは秀逸だが、前作同様に手頃な尺に収めた結果、解釈する愉しさというよりは、必要に満ちなかった物足りなさに繋がってしまっている。

 と、まず難点から挙げたが、しかし前作のファンならおおむね、本篇に強い不満を抱くことはないだろう。少なくとも、作品世界を決して壊すことなく、新たな物語として新しい要素を編み出し、吟味し、うまくパーツを組み立てたことは認めるはずだ。

 前作の展開を踏まえれば、続投するキック・アスやヒット・ガール、そして宿敵となったレッド・ミストの変化の方向性はほぼ決まっている。問題は、その成り行きをどれくらい納得できるかたちで描くか、だった。

 本篇はその課題をいずれも丁寧にこなし、三者を巧みに連動させて大きな物語を紡ぎあげている。前作の結末で引退を仄めかしていたキック・アスには当然ながら復帰への道程を、だが決して安易なポーズのみの努力ではなく、本格的な鍛錬から始めている。それと並行して、前作で父を喪い、別の保護者に引き取られたことで、活動がより他人の眼を忍ぶものになってしまったヒット・ガールの苦労と、成長したからこその変化を描いていく。前作の結末で名コンビになるかも知れない、と思わせたふたりの、ヒーローとしての“すれ違い”を描くくだりはヤキモキしつつも愉しい。

 そしてもう一方のレッド・ミストだ。前作の結末でキック・アスへの復讐を誓った彼は、時を経てその機会を得、意識して悪役への道を邁進していく。母親に歯向かい、闇雲に組織を作ろうとするその様はコメディそのものだが、どこか哀れにも映る。パンフレットの記述によれば、彼の個性には『ダークナイト』でヒース・レジャーが演じたジョーカーの影響があるそうだが、確かに頷ける――あの鬼気迫る造形と演技と比較してしまうと気の毒だが、凡人がこの映画史に残る怪人を模倣しようとすれば、こんな感じになってしまうのも真理だろう。

 いずれにせよ、前作から続投する彼らのこうした活躍は決して予測の範囲をはみ出すものではない。それらを大きな挫折、使命の自覚、といったテーマを、統一したモチーフで束ねることで、混乱を起こすことなく語っている。

 いまひとつ掘り下げきれていない、とは言い条、世界観を乱さない新キャラの数々は、その立ち回りを眺めているだけでも愉しい。てきとーに思いつきで放り込んだようなヒーロー、悪役たちは親しみやすくも滑稽で、アクションはかなり過激に描かれているのに笑いが絶えない。そんな中で、ひとり異彩を放つ悪役サイドの最終兵器マザー・ロシアでさえ、やり口は悽愴だが、いっそ痛快に思えるくらい活躍振りは清々しい。彼女とヒット・ガールとの最終決戦は、本篇のなかでも最高の見せ場となっている。

 掘り下げの甘さゆえに、単体で完璧に近かった前作と比較するとどうしても見劣りはする。しかし、この難しい課題に真っ向から挑み、作品の美点を損なうことなく膨らませ、発展させており、決してファンの期待を裏切らない続篇と言っていいだろう。

 ただ、何よりも残念なのは、本篇の出来事を経て、いよいよキック・アスが“なりきりヒーロー”から脱却しつつある、ということである――致し方のないところではあるのだが、もし更に続篇が作られるとしたら、もうきっと彼は紛う方なきヒーローになっているだろう。もともとそういう次元を志向する物語なのだが、一抹の寂しさは禁じ得ない。

関連作品:

キック・アス

アンナ・カレーニナ』/『パラノーマン ブライス・ホローの謎』/『キャリー』/『空飛ぶペンギン』/『地獄の変異』/『悪の法則』/『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙

ウォッチメン』/『ダークナイト』/『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』/『アベンジャーズ』/『マン・オブ・スティール

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