『テルマエ・ロマエII』

TOHOシネマズ日本橋、スクリーン9入口に掲示されたチラシ。

原作:ヤマザキマリ(KADOKAWA エンターブレイン刊) / 監督:武内英樹 / 脚本:橋本裕志 / 製作:石原隆、市川南、石川豊、青柳昌行 / プロデューサー:稲葉直人、菊地美世志 / ラインプロデューサー:小沢禎二、宮崎慎也 / 撮影:江原祥二 / 美術:原田満生 / 編集:松尾浩 / 衣装:宮本まさ江 / VFXスーパーヴァイザー:西尾健太郎 / 音楽:住友紀人 / 出演:阿部寛上戸彩北村一輝竹内力、宍戸開、笹野高史市村正親キムラ緑子、勝矢、曙、琴欧洲菅登未男、いか八朗、松島トモ子白木みのる / 制作プロダクション:フィルムメイカーズ / 配給:東宝

2014年日本作品 / 上映時間:1時間52分

2014年4月26日日本公開

公式サイト : http://www.thermae-romae.jp/

TOHOシネマズ日本橋にて初見(2014/06/18)



[粗筋]

 2世紀のローマ帝国は、波乱の気配に揺れていた。時の皇帝ハドリアヌス(市村正親)はそれまでの侵略路線から周辺諸国との和平路線に切り替え、血にまみれた歴史に終止符を打とうとしていたが、元老院の面々は未だ領土拡大を目論んでいた。国民を戦争へと煽動するべく、元老院が主催する闘技は残酷さを増しており、ハドリアヌス同様に和平路線を支持するテルマエ技師ルシウス(阿部寛)は胸を痛める。

 だが、元老院の議員から直々に、戦いで疲弊したグラディエーターたちを癒すためのテルマエの建設を依頼されたルシウスは、議員たちの本当の狙いも知らず、皇帝のためなら、と引き受ける。

 とはいえ、温泉を引くことも出来ない環境で、どのように戦士たちの恢復が見込めるテルマエを建築するのか、ルシウスは悩む――途端、まるでそれが当然のように、ルシウスは彼が“平たい顔の民族”と呼ぶ人々が暮らす、現代日本へとタイムトリップした。

 ルシウスが迷い込んだのは、巡業中の相撲取りが利用していた宿舎の浴室だった。そこで、温泉を引くことが出来ない環境でも疲労回復が見込める知恵を学んだルシウスは、またしても“平たい顔の民族”の模倣で祖国に多大な貢献をする。

 そんなルシウスに、ふたたびハドリアヌス帝はローマの命運を託した。国民に心の安寧をもたらすべく、巨大なテルマエの建造を命じたのである。

 敬愛する皇帝からの頼みに奮い立ったルシウスは手探りのまま建造に着手するが、なかなかテルマエの全体像は見えてこない。そして彼は、毎度のように現代日本へと流されるのだった……

[感想]

 テルマエと呼ばれる公衆浴場が普及していた古代ローマの技術者が、もし現代日本の風呂文化に接したらどんな反応をするのか? という、ユニークな発想で描かれ、発表早々から大ヒットとなった漫画を、阿部寛を筆頭とする日本有数の“濃い顔”の俳優たちがローマ人に扮して演じる、という趣向で実現した映画化の、第2作である。

 そもそもの発想もさることながら、中途半端にイタリア人を起用してそれっぽくする愚を犯さず、それっぽい日本人でメインキャストを固める、という奇想天外なアイディアを、ギャグの面でも活かしたことで、漫画とはまた異なる高い人気を獲得した作品である。続篇でも、その魅力をまず重視して、お風呂文化をテーマにした笑いを細々と盛り込んで楽しませてくれる。

 ただ、前作に比べると、長篇映画としての構成は脆弱になった感がある。前作では、出だしで既にスランプだったルシウスが、別の文化から模倣していることを悩みつつも次第に皇帝によって重く扱われるようになる、といった事態の推移が明白であり、それが随所で披露される、本邦のお風呂文化のユニークな輸入の仕方とうまく絡みあって相乗効果を上げていたが、本篇はルシウスが悩み出せば簡単にタイムトリップが行われ、ルシウスも詳細を理解できているだけに、異文化に接しているが故の戸惑いが少なく、いちおう自尊心を覗かせつつもけっこう無抵抗に日本文化を採り入れてしまっており、そのあたりの葛藤の面白さが減ってしまった。しかも、長篇としてのストーリー展開も、“民衆に平和を求める意識を根付かせる”という大きな狙いはあるが、そこに別の要素を絡めて膨らませる上での工夫がいまひとつ成功していないし、そのうえでお風呂に関するアイディアとの連携も不充分になっているので、なおさら全体の印象がボンヤリしてしまっている。終盤でちょっとしたサプライズがあるのだが、あれがサプライズとして機能するためにはもっと仕掛けが必要だったし、それとお風呂の趣向とを巧く絡めておくべきだった。余りに取って付けた感があって、驚いていいのか笑っていいのか解らなくなる。

 しかし、考えようによっては、そこまで徹底して物語を後回しにしたお陰で、時代も場所も超えた異文化交流の醸し出す面白さ、というこの発想の一番の魅力をかなり剥き出しで楽しめる作りとなっているのも事実だ。

 無駄な前置きなしにいきなり現代日本に到着するなり、日本人ならひと目で解るような事実を独自に解釈して暴走するルシウス。本当になぁんにも知らない異国人が見せる奇妙な振る舞いと、その周囲の、ちょっと特殊ではあるが決して縁遠いものではない状況とのコントラストが引き出す笑いは鉄板と言っていい。あくまでもお風呂をベースに、最初は巡業中の相撲取りの宿舎、アトラクションも用意した温泉リゾート、ボイラーを用いた即席の浴槽に、草津温泉の整然と形作られた温泉郷の光景など、日本人ならば馴染みのある、しかし異国のひとにはいささか奇異に見えるはずのシチュエーションとを巧く絡め、様々な笑いを織りこんでいく。あまりにも日本人に馴染みのあるモチーフを採り入れすぎて、果たしてよその国の人に伝わるのか? と思うところも多々あるが、それもまた一興というところだろう。

 そして、その面白さを追求するために、スタッフとキャストがきちんと前作の良さを残し、更に予算や労力を費やしているのが嬉しい。前作以上に豪華になったセットは近年の日本映画ではなかなかお目にかかれなかった“異世界感”が味わえ、大勢招かれた海外のエキストラに混じった“濃い顔”のひとびとのインパクトを改めて愉しめる。とりわけ、前作でも高く評価された肉体を更に鍛え上げ、ギリシャ彫刻のようなクオリティにまで研ぎ澄ませた阿部寛の肉体には、“たかが”コメディによくぞここまで、と頭の下がる想いだ。温泉リゾートの滑り台の前に、一糸まとわぬ姿で立ち尽くすさまなど、動きなしで笑いが取れてしまうあたり、もはや芸の領域である。単なる“いい男”から脱皮し、シリアスもコメディも可能な演技派に成長した阿部寛が、初めて日本アカデミー賞で演技を評価されたのがこの役柄だった、というのは彼の功績に対して少々不当ではないか、という気もするのだが、しかし間違いなく“当たり役”となったこのキャラクターを、スクリーン上に実に活き活きと再現している。

 物語としての弱さは禁じ得ないが、しかし前作同様、“お風呂”と“古代ローマ”という特異な題材を活かしたユーモアは存分に楽しめる。登場人物と一緒になって、“いい気分”に浸っていただきたい。

関連作品:

テルマエ・ロマエ

TRICK 劇場版 ラストステージ』/『ステキな金縛り』/『あずみ2 Death or Love』/『真夏の方程式』/『銀の匙 Silver Spoon

センチュリオン』/『ローマ法王の休日

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