『ハイブリッド刑事』

『ハイブリッド刑事』

監督、脚本、キャラクターデザイン、編集、Flash制作&声の出演:FROGMAN / 音楽:manzo / 声の出演:神田うの松崎しげる国広富之、亜沙 / 制作スタジオ:蛙男商会/DLE / 配給:DLE Inc.

2011年日本作品 / 上映時間:45分

2011年1月22日日本公開

公式サイト : http://haideka.jp/

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2011/01/18) ※時給マイナス2000円増減なしアルバイト……と称したイベント上映



[粗筋] ※特記なきもの以外、声はすべてFROGMAN

 小泉鈍一郎は警視庁捜査一課の刑事であったが、爆弾事件の捜査中のミスがきっかけで、ハイブリッド課に転属させられた。

 ハイブリッド課とは、昨今のエコブームにあやかり、各省庁のエリートたちを掻き集め、捜査能力のみならず別の専門分野での活躍も期待できる新たな刑事達を集めた部署――というのはあくまで建前。その実態は、各部署のお荷物の寄せ集めに過ぎなかった。

 やりたくもないのに鈍一郎が課長に配属された矢先、ハイブリッド課に出動命令が下された。まさにこの部署誕生のきっかけを作った張本人、公務員改革を掲げてあちこちの部署を整備させた大岩行政改革大臣のもとに、娘のエイコ(神田うの)を誘拐するねという予告状が届き、彼女の警護のために駆り出されたのである。

 お荷物部署とは思えないこの大任には裏があった。大岩大臣の施策により予算を大幅に削減されたことを恨んだ京極警視総監は、この一件で大岩大臣の組織したハイブリッド課の無能ぶりを大臣本人に痛感させ、課を解散させると共に、予算の再編を考えさせようと目論んだのである。

 そんなこととは知るよしもない小泉鈍一郎は、逆にこれこそ捜査一課返り咲きの好機と考えた。そして彼は、とんでもない行動に出る……

[感想]

 TOHOシネマズ系列を愛用している人々にとっては、この数年ほどずっとマナー・ムービーやサービス広告ですっかりお馴染みとなっている『秘密結社鷹の爪』シリーズは、絵の質的にも話の方向性としても本来あまり劇場公開には向かないのだが、そこを内容以外のアイディア、メタフィクション的な趣向を多数盛り込むことで、ひと味違う愉しさを観客に提供してきた。その時点での製作費の残量を表示するメーターを画面の端に設置し、登場人物の危機感を煽ったり、製作費が乏しいと絵が手抜きになったりする。それを補強するために、途中で無理矢理広告を挿入して製作費を調達する、という趣向が用いられる。下世話ではあるが、他では考えられない種類のインパクトがあり、劇場版2作目、3作目と継続して用いられている。

 本篇は、その発想を作品の構想段階から供給に至るまで満遍なく波及させたもの、と言えるだろう。提供はトヨタ店、そのメールマガジンの登録者増を目指して、題名はトヨタ店が積極的に導入を進めてきたハイブリッド・カーに因み『ハイブリッド刑事』とし、映画公式サイトではやかましいくらいに登録用のQRコードを押し出す。あまつさえ、全国のごく厳選された劇場で1週間のみ、という限られた期間ながら、トヨタ店がチケット代を肩代わりする、という名目で、無料公開を実践してしまった。恐らく空前であり、今後も絶対こいつらしかやらねーだろ、という試みだが、それを実現してしまった、というだけで賞賛に値する。

 内容のほうは、これまでの『鷹の爪』作品を鑑賞した人にとってはいつも通り、という印象だ。『秘密結社鷹の爪』の総統である小泉鈍一郎の単独初主演、それも秘密結社のボスという設定ではなく、粗筋の通り退職寸前のロートル駄目刑事ということになっているが、周囲のキャラクターといい話の展開といい、ほぼ『鷹の爪』と同じノリだ。あまりに同じなので、総統を掻き回し話を脱線させ、時として回収もしてしまう吉田君がいないのが不審に思えるほどだ。千脇オドルというサブキャラが似たような役回りを演じているだけになおさらそう思える。

 但し、メタ的な趣向に淫したり、ナンセンスなギャグに没頭しているだけでは決してないのが、『鷹の爪』シリーズの持ち味のひとつだが、その良さも本篇は踏襲している。時間が経つと風化してしまうために、時間を費やして製作される大作では避けられがちだが、短期間で完成まで漕ぎつけてしまう『鷹の爪』シリーズはそのあたりに躊躇がない。本篇でも、宣伝と直結する“ハイブリッド”を公務員改革などと結びつけ、ギャグで派手にコーティングしながらもところどころで鋭い諷刺を織りこんでくる。お荷物の公務員たちを1箇所に集めて経費削減を狙う、など非現実的な発想だが、妙にあり得そうなのが笑いを誘うと共にインパクトを残すのだ。

 そして、すべてネタで彩っているかに見えて、最後の最後でネタとは言い切れない、けっこう熱く印象深いクライマックスを持ってきてしまうのも、『鷹の爪』シリーズらしい。特に本篇の場合、パロディの延長で誕生したように見えたキャラクターが、その役回りを果たしながら凄まじいまでの爽快感を齎す台詞を吐くのが出色である。

 全篇に仕込んだ細かなネタを、豪華なゲストで味付けしてしまうのもまたこのシリーズの特徴だが、本篇においては神田うのの起用が予想以上に効果を上げているのにも注目だ。はっきり言えば演技が巧い、というタイプの人ではないが、世間が彼女に対して抱いているイメージを誇張したヒロイン像は、恐ろしいほどにシンクロして違和感がない。彼女がおかしなことを口にするたびに小泉鈍一郎がアップになり、その胸中を呟いた瞬間の劇場の一体感は、ちょっと壮絶なものがある。こういう憎まれ役を快く演じている神田うのに、逆に好感を抱いてしまうほどだ。

 前述の通り、意識的に時事ネタを仕込んでいる傾向もあり、敢えてわざとらしくトヨタ絡みの宣伝を盛り込んだ作りは、どうしても古びるのは早くなるに違いない。だが、だからこそ本篇にはその場限りのお祭り騒ぎ、という感覚の、他では味わえない愉しさがある、と思う。リリース直後に入手するのであれば映像ソフトでもいいだろうが、この愉しさを満喫するなら、やはり劇場に足を運ぶべきだろう。Flashを利用した絵は大画面だとジャギーや描線のブレが目につくのだが、それもまた一興である。

関連作品:

秘密結社鷹の爪 THE MOVIE II 〜私を愛した黒烏龍茶〜

秘密結社鷹の爪 THE MOVIE 3 〜http://鷹の爪.jpは永遠に〜

ピューと吹く!ジャガー〜いま、吹きにゆきます〜

コメント

タイトルとURLをコピーしました