小泉節子『思ひ出の記』

小泉節子『思ひ出の記』(Amazon.co.jp商品ページにリンク) 『思ひ出の記』
小泉節子
判型:B6判
版元:ハーベスト出版
発行:2024年9月26日
isbn:9784864565332
価格:1760円
商品ページ:[amazon楽天]
2025年1月23日読了

『怪談』などの著書により、明治中期から日本文化を世界に発信しその名を残す小泉八雲。来日後の彼の生活を支え、八雲の創作にも多大な貢献をした妻であった小泉節子(セツ)が、八雲の死後、請われるかたちで執筆した回想録に、3つの手稿を添えて復刻。
“執筆した”と書いたが、実際には小泉家の遠縁であり、八雲の助手を務めていた三成重敬という人物が聞き書きの形で書き起こしたものだという。だからなのだろう、出会いから死別まで順繰りに回想していく、という形でも、章立てして内容を細かく分けてまとめるという形でもなく、ひたすらとりとめもなく記憶を語っている雰囲気が、まるで当人に直接語ってもらっているかのような印象をもたらす。小泉八雲が解雇された後任として帝国大学の教職に就いた夏目漱石の回想録にも影響を及ぼしていたそうだが、なかなかに因縁深い。
 本書を読むと、ラフカディオ・ハーン=小泉八雲という人物像が活き活きと蘇るようだ。繊細で気難しく、しかし冗談を愛して、日本の風物を賞賛し西洋風へと傾斜していく当時の日本人を苦々しく感じていたその様子が、脳裏に蘇るようだ。
 八雲という人物はなかなかに扱いづらく、著者の言葉には気遣いに苦労した様子も窺えるが、ただそれを厭っていたようには感じない。むしろその気難しさ、繊細さを愛し、とても懐かしんでいるのが行間から滲み出てくるようだ。だから、ずっとそこを避けていたかのように、終盤に訪れる死別のくだりがどうしようもなく涙を誘う。まさに文字通りの“回想録”であり、面影と記憶が封じ込められた、読み物としても資料としても優れた1篇である。
 本書には他に、出版されなかった手記2本が収録されている。いずれも小泉八雲とは直接繋がらないものの、著者本人の家柄、人柄が垣間見える。特に《幼少の頃の思い出》は、ハーンに至る縁がこの頃から繋がっていた、と感じさせるものがあって趣深い。ちなみに、本稿に登場する重要なアイテムは、本書を監修した松江の小泉八雲記念館の所蔵で、2024年6月27日から2025年6月8日の期間、著者に焦点を当てた企画展にて解りやすく公開されているので、本書を読んで興味を抱いた方はご覧いただきたい。
 著者は2025年秋期のNHK朝のテレビ小説『ぱけばけ』のモデルとして採り上げられている。これをアップして間もない時期にご覧になっている方は、ドラマの予習として、放送開始以降にご覧になった方は、小泉セツという人物の実像に触れるために読んでみてもいいだろう。そのうえで、『怪談』をはじめとする小泉八雲の著作に触れると、より深くその世界に浸れるはずだ。


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