『ARIA The CREPUSCOLO』

TOHOシネマズ上野の入っている上野フロンティアタワー1階外壁部分にあしらわれた『ARIA The CREPUSCOLO』キーヴィジュアル。
TOHOシネマズ上野の入っている上野フロンティアタワー1階外壁部分にあしらわれた『ARIA The CREPUSCOLO』キーヴィジュアル。

原作:天野こずえ『ARIA』(マッグガーデン・刊) / 総監督&脚本:佐藤順一 / 監督:名取孝浩 / キャラクターデザイン&総作画監督:伊東葉子 / 撮影監督:間中秀典 / 美術監督:氣賀澤佐知子 / 色彩設計:木村美保 / 音楽:Choro Club feat. Senoo / 主題歌&エンディングテーマ:安野希世乃 / 挿入歌:河井英里、広橋涼 / 声の出演:広橋涼、佐藤利奈、茅野愛衣、渡辺明乃、葉月絵理乃、大原さやか、水橋かおり、西村ちなみ、斎藤千和、皆川純子、中原麻衣、安野希世乃 / アニメーション制作:J.C.STAFF / 製作:松竹 / 配給:松竹ODS事業部
2021年日本作品 / 上映時間:1時間1分
2021年3月5日日本公開
公式サイト : https://ariacompany.net/
TOHOシネマズ上野にて初見(2021/3/6) ※公開記念舞台挨拶中継付上映


[粗筋]
 開発された火星に、水の都ヴェネツィアを模して作られたネオ・ヴェネツィア。ここには、街中に張り巡らされた水路をゴンドラで巡る水先案内人(ウンディーネ)がいる。
 この水先案内人を束ねる会社のひとつであるオレンジぷらねっとで修行中のアーニャ(茅野愛衣)は、散歩の途中で先輩・アテナ(佐藤利奈)と遭遇する。《水の三大妖精》と称されるひとりであるアテナはその歌声にファンが多く、最近はゴンドラを漕ぐよりもステージに立つことのほうが多い。彼女にとっての愛弟子であり、アーニャにとっては指導者であるアリス(広橋涼)とは近ごろ会うことが出来なかったが、舞台の空き時間にアリスのカンツォーネを耳にして、その姿見たさに抜け出してきたという。
 しかし、いくら多忙と言っても、会う時間がまったく設けられないわけではない。会社に届いたアテナ宛のファンレターを届けに行くことも出来たのに、アリスは何故かアーニャに任せてしまった。どうやらアテナとアリスのあいだには、何らかのわだかまりがあるらしい。
 わだかまりを解くためには、やはり直接顔を合わせるほうがいい。アーニャは練習仲間であるアリアカンパニーのアイ(水橋かおり)、姫屋のあずさ(中原麻衣)と共に頭を絞るが、先輩達を引き合わせる名案はどうしても出て来ない。アイの先輩である灯里の知恵も借りたが、けっきょく具体的なアイディアは生まれなかった。
 折しもネオ・ヴェネツィアは夏を代表する祭、レデントーレを間近に控えている。アーニャ達は屋形船を出してアテナ達を招待する策を思いつくが、アーニャ達もあずさの師匠で姫屋の跡取り娘・藍華(斎藤千和)の命令でカフェを手伝うことになり、にわかに多忙になってしまった。
 果たしてアテナとアリスのあいだに何があったのか? 頭を悩ませ胸を痛める見習い3人組のために、先輩たちはそっと手を差し伸べるのだった――


[感想]
 前作『ARIA the AVVENIRE』を観たとき、私はこの『ARIA』というシリーズを、とても幸せな作品だ、と感じた。3度にわたってテレビシリーズが放送され、原作をほぼ完結まで描くことが許された、というだけでもかなり貴重な出来事なのに、それが継続的に鑑賞され、BOXセットのリリースに際して後日譚である新作が発表された。限定的に実施された劇場公開も盛況だったらしい。
 この奇跡的な“再会”から5年半を経てふたたび製作された続篇であるこの作品は、前作と同様にテレビシリーズから数年後、灯里・藍華・アリスの世代が一人前になり、彼女たちの次の世代が水先案内人として歩みはじめた頃を描いている。
 今回の物語は、テレビシリーズで主人公だった灯里や彼女の所属するアリアカンパニーではなく、かつて練習仲間だったアリスと、彼女の所属するオレンジぷらねっとの先輩アテナ、そして後輩アーニャを中心にしている。
 シリーズに親しんだ者にとっては、この事実そのものに感慨を禁じ得ないのだ。
 アテナはその歌声の素晴らしさで名を馳せたウンディーネという設定で、テレビシリーズでは通常の声を川上とも子が、歌声を河井英里が担当していた。だが、2008年に河井が、2011年に川上が亡くなり、言ってみればアテナは“声を失った”状態だった。前作は登場シーンを絞り込みながら、アーカイヴの映像、音声を用いることでその不在を補っていたが、今回は正式に佐藤利奈が後任となることで、ほぼ冒頭から顔を見せると、一部のシーンではモノローグまで行い、全面的に物語に参加している。しかもその演技がしっかり川上とも子に寄り添っているから、往年のファンなら、序盤の何気ないやり取りにさえ涙ぐんでしまいそうだ。
 物語も、オリジナルシリーズの場面を引用しつつ、きちんと“そのさき”の日々、関係性を形にしている。アリスやアテナが辿ってきた過去、経験した出来事が、アーニャたち次世代の視点も借りながら再現されていくさまは、もともとのシリーズが備えていた郷愁を更に深く豊かにして、絶えず物語のなかで響き続ける。これまでのシリーズ作品に親しんできたひとは無論のこと、たとえ過去の作品に接したことのないひとでも、本篇からは蓄積された記憶、経験、感情が溢れてくるのを感じるはずだ。
 率直に言えば、本篇の語り口はあまりスマートとは言いがたい。いささかクセの強いキャラクターに、あまりにも芝居がかった台詞回しは、ひとによっては鼻について感じられるだろう――オリジナルシリーズのときはそこで「恥ずかしいセリフ禁止!」とツッコミを入れる藍華の存在が適度に中和していたが、今や責任ある立場となり、出番の減った彼女が介入出来るはずもなく、あらかた野放しになっているのも一因だ。ただ、実際にその場面にいても、だいぶ“恥ずかしいセリフ”を放置しているあたり、藍華も丸くなった、とも取れる――或いは、そんな“恥ずかしいセリフ”が醸し出す優しい空気に、彼女もだいぶ感化されてしまったのかも知れない。
 観る側の嗜好にも因るが、本篇は快いものばかりで出来ている。それぞれに癖はあるし個性が衝突することはあるが、互いを思いやる好人物しかいない。そんな彼女たちが生活するネオ・ヴェネツィアは、実在するヴェネツィアを外観だけ模したわけではなく、そこに刻まれた歴史をも克明に再現し、オリジナルへの敬意を窺わせる。そして本篇は、人物も背景も緻密に描き込まれ、場面ひとつひとつが繊細で美しい。
 このシリーズは、そこにあるものの美しさや優しさ、幸せを感じさせてくれることが大きな魅力だった。それは時を重ねるごとに、色褪せるどころか更に強く、ふくよかになっていくようだ。そうしてシリーズが積み上げてきたものに、とことん誠実であろうとした本篇が、ファンにとっては心地好く幸せな作品になるのはごく自然なことと言える。きっと、シリーズ本篇を知らないひとが観ても、こんな心地好さに繋がっていく作品世界にはじめから触れてみたくなるはずだ。

 ――そして、どうやらこの幸せな世界は、またふたたび新たな物語を用意してくれるらしい。幸せはまだ続いている。


関連作品:
ARIA the AVVENIRE
泣きたい私は猫をかぶる』/『魔女見習いをさがして
劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン 』/『劇場版SHIROBAKO』/『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ〔新編〕 叛逆の物語』/『スマイルプリキュア! 絵本の中はみんなチグハグ!』/『スター☆トゥインクルプリキュア 星のうたに想いをこめて
旅情(1955)』/『太陽がいっぱい』/『ミニミニ大作戦』/『カサノバ』/『007/カジノ・ロワイヤル』/『ツーリスト』/『ワン チャンス

コメント

  1. […]  最初に鑑賞したのは、『ARIA The CREPUSCOLO』(松竹ODS事業部配給)。もういっかいあの世界に浸りたかったから……もありますが、入場者特典と、半券2枚で応募できるプレゼントキャンペーンの存在も大きかったりする。 […]

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