『十三の黒い椅子』 倉阪鬼一郎 判型:四六判ハード レーベル:Mephisto Club 版元:講談社 発行:2001年11月30日 isbn:4062110040 本体価格:1800円 商品ページ:[amazon/amazon(アドレナライズ)/楽天/楽天(アドレナライズ)/BOOK☆WALKER(アドレナライズ)] 2023年8月23日読了 |
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小説、散文詩、戯曲、複数のジャンルの書き手が携わったホラーミステリ・アンソロジー『十三の黒い椅子』。だが、巻頭を飾った杉下ゆかりの死を始まりに、執筆者を次々と奇禍が襲う。この書籍に封じ込められた企みとは一体―― 2023年時点ではすっかり時代小説がメインフィールドとなった著者が雑誌『メフィスト』にて初めて連載した、企みに満ちた長篇。 率直に言ってしまえば、最初はちょっと物足りなさを感じてしまう。目次に実在しない作家名と共に作品名が羅列され、様々な作品が楽しめるのかと思いきや、多くは抜粋になっており、たぶんミステリだったんだろうな、と思われる作品は推理や解決部分しか収録されていない。なんでそうなったのか、も理解は出来るし、仮に全文を用意して収録したとしても、無駄が多く、やたらと紙幅ばかり嵩む作品になってしまった可能性が高い。どちらかと言えば作品全体においても文章面でもコンパクトにまとめていく印象の強い著者にはあまり似合わない趣向とも感じるので、これが適切でもあるのだろう。 それにつけても仕掛けの執拗さに、序盤から目眩がする。冒頭の短篇が既に謎めいた気配を宿しているが、雑誌に連載された日記や、執筆者のひとりが営む掲示板、対談と様々な体裁の文章が用いられ、それぞれに韜晦めいた言い回し、謎めいたやり取りが鏤められているので、どんどん迷宮に誘われていく感がある。 こうして紡ぎあげられた多彩なテキストは終盤に至って紐解かれ、隠されたものを次々と晒していく。企みに満ちた、と記したが、褒め言葉として“常軌を逸したレベル”と付け加えたい。ここにも、あそこにも、と秘密が仕込まれたうえ、こうした作品でしばしば用いられるある趣向が幾度も形を変え再登場してくる様の混沌とした様相はたまらない。 ただ欠点として、あまりに趣向に趣向を重ねすぎて、幻想に取り込まれるというより、よく練りこまれた巨大迷路を彷徨っているような感覚に陥ってしまう。まさに技巧的過ぎるがゆえの弊害で、こうした趣向の匙加減の難しさも実感してしまう。著者は本篇以降もこうした仕掛けを多用した作品を発表しているが、どちらかと言えば遊戯的な仕上がり、ユーモアミステリに活用されているように感じるのも、そうした理由があるのかも知れない――いまはただの印象で記しているので、話半分に捉えていただきたいところだが。 巨大迷路、という解釈をすると、ラストが必ずしも綺麗に抜けておらず、まだ物語の壁に囚われているような気分も味わっているのだが、本篇の趣向を徹底する、という意味ではこれが最適な締め括りだろう。それが歯切れの悪さに繋がっているのも事実で、どうしても好み、評価は割れそうだ。私自身は今回、色々あって埋もれてしまっていた本書を掘り出し、近年としては短い期間に読み切って、知性と感性の入り乱れる絡繰り玩具に惹き込まれる楽しさを堪能出来て心地好くさえあるのだけど、やはりマニアックな作品には違いないと思う。 私が読んだのは2001年の単行本版で、こちらは2023年現在、新刊市場ではたぶん見つからない。その代わり、入手困難となった作品や未完の作品などを多数刊行している電子書籍レーベル《アドレナライズ》から復刻されている。上の商品リンクのところに併記したので、興味がおありの方はそちらからご購入いただきたい。 |
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