伝説の探偵、復活。

 最近は、イベント絡みの事情でもない限り2日連続で映画を観に行くことはしてませんでしたが、正直今回はどうしようもない。なにせ、必ず観に行く、と決めてた作品が昨日だけで4本封切られてるのですから。早いところ消化せねばなりません。
 それでも、1本は少し先送りにしようか、と考えていたところ、うちの1本が夕方から出かけて、土曜日のお楽しみ『ブラタモリ』が始まるまでに帰宅できる、私にはなかなかいい時間帯にかかっているのに気づいた。昨日までしっかり透析はしているので、きょうは夜空けてもいい。というわけで、思い切って出かけてきたのでした……そのぶん、午前中にやれることはやって、ね。
 暑くていまいち仮眠は出来なかったものの、横になって疲れは取り、午後にお出かけ。行き先はTOHOシネマズシャンテです……今年は地味に多い。
 鑑賞したのは、レイモンド・チャンドラーの想像した伝説の探偵のキャラクターを、ブッカー賞作家ジョン・バンヴィルがベンジャミン・ブラック名義にて蘇らせた小説をリーアム・ニーソン主演で映画化、裕福な女から受けた人捜しの依頼がハリウッドの闇へと向かう探偵マーロウ』(STAR CHANNEL MOVIES配給)
 どーせマーロウを映画化するならチャンドラー自身の作品にして欲しいんですが、この時代の作家によくある、映画業界に踏み込んだけど散々な目に遭って距離を置く、というパターンを辿ったひとなので、現在の権利者も判断のハードルが厳しいのかも知れません。そもそも代表作全般、映像化して魅力を生み出すのが厳しい、という考え方もありそうですけど。
 非常に雰囲気のある作品でした。1930年代のハリウッドの混沌とした雰囲気に、チャンドラーの書く台詞を思わせるウィットに富んだ会話。まさに往年のハードボイルドであり、ノワールの佇まい……なんですが、正直なところ、雰囲気止まり、という印象。
 チャンドラーの作品はハードボイルドと言いながらけっこうレベルの高い謎解きを仕込んでいて、だからこそ長く支持されている、というのもあるのですが、本篇は仕掛けが甘い。チャンドラーの原典も急に話が展開することは多かったですが、もっと納得は行きますし、そこから滲み出るドラマがあったのに、そこが物足りない。
 そして、肝心の台詞のウィットも、いまひとつ芯を食ってなくて、上っ面な印象を受けてしまう。心理まで潜り込めないコスチュームものを観ている感覚です。実に様々なところから引用しているし、さらっと『マルタの鷹』という単語が出てくるのも効いているんですけど。
 しかし、この時代のハリウッドの混沌ぶりのなか、女性や黒人の地位の低さと、その中でも逞しく振る舞う姿といった具合に現代的なテーマを縒り合わせるように表現し、そこをリーアム・ニーソン演じる往年の名画を思わせる佇まいの私立探偵が横断していく様には、映画としての風格があります。ハードボイルド、ミステリとしての完成度には疑問はあれど、雰囲気を堪能するにはいい1本。明らかに歳を取り過ぎてますが、そういう前提であってもリーアム・ニーソンにマーロウを演じさせてくれたのは嬉しい。

 鑑賞後の寄り道は一切なし。何なら、劇場でトイレにも寄ることなく家路に就いたので、想定の半分くらいの時間で着いてしまった。

コメント

タイトルとURLをコピーしました