『グッバイ、ドン・グリーズ!』

TOHOシネマズ上野が入っている上野フロンティアタワー、1階外壁にあしらわれた『グッバイ、ドン・グリーズ!』キーヴィジュアル。2022年2月8日に撮影。
TOHOシネマズ上野が入っている上野フロンティアタワー、1階外壁にあしらわれた『グッバイ、ドン・グリーズ!』キーヴィジュアル。2022年2月8日に撮影。

原作:Goodbye, DonGlees Project / 監督&脚本:いしづかあつこ / 企画:菊池剛、田代早苗 / 絵コンテ:いしづかあつこ、松村政輝、木村拓 / キャラクターデザイン&総作画監督:吉松孝博 / プロップデザイン:日向正樹 / 美術監督:岡本綾乃 / 色彩設計:大野春恵 / 撮影監督:川下裕樹 / 編集:木村佳史子 / 音楽:藤澤慶昌 / 主題歌:[Alexandros]『Rock The World』 / 声の出演:花江夏樹、梶裕貴、村瀬歩、花澤香菜、田村淳(ロンドンブーツ1号2号)、指原莉乃 / アニメーション制作:MADHOUSE / 配給:KADOKAWA
2022年日本作品 / 上映時間:1時間38分
2022年2月18日日本公開
公式サイト : https://donglees.com/
TOHOシネマズ上野にて初見(2022/2/18)


[粗筋]
 鴨川郎真、通称ロウマ(花江夏樹)の高校生活は孤独だった。同級生達に馴染めず、夏休みも父(田村淳)の畑仕事を、肥料の匂いにまみれて手伝っている。
 そこへ、東京の進学校に入った御手洗北斗、通称トト(梶裕貴)が帰ってきた。ロウマにとってトトは幼少時に《ドン・グリーズ》というチームを結成、秘密基地を設けて一緒に遊んだ親友だった。今年は、意気投合した新しい仲間、アイスランド帰りの佐久間雫、通称ドロップ(村瀬歩)も交えて再会することを、ロウマは楽しみにしていた。
 村の花火大会の日、ロウマたち3人は雑貨屋で買い込んだ打上花火で、《ドン・グリーズ》だけの花火大会を試みた。ロウマは全財産を投じてドローンを購入、一斉に上げた花火を上空から撮影する――はずだったが、花火はひとつも火がつかず、ドローンは強風で制御不能になり、遠くへ流されてしまった。
 この日、村の花火大会会場の近くで山火事が発生した。ロウマたちがこっそり自分たちだけの花火大会を催していたことを嗅ぎつけた同級生たちは、SNSでロウマたちが犯人だ、と噂を流した。動揺したロウマとトトは、無実を証明する必要がある、と感じる。唯一、上空に飛ばしたドローンが、証拠になる可能性があったが、ドローンに搭載したGPSの信号は、18キロ先の山奥を示していた。
 絶望するローマとトトに、ドロップは意気揚々と、「ドローンを回収しに行こう」と提案する。18キロの山道は、1日で往復することは難しい。ロウマは両親に、友達の家に泊まってくる、と嘘をついて、家を出た。
 こうして、《ドン・グリーズ》最後の“大冒険”は始まった――



[感想]
 鑑賞当日のブログに“現代日本版のお行儀のいい『スタンド・バイ・ミー』”と記したが、未だこれがいちばん簡潔な表現だった、と感じている。否定的なニュアンスではなく、あくまで作品の核にある趣向と、それを描く上でのスタンスの話だ。
 現実として、いまの日本で『スタンド・バイ・ミー』をそのまんま描くことは出来ない。象徴である、線路に沿った移動は、廃線にでもなってない限りかなり難しいし、それでは途中の盛り上がりである汽車に追われるシーンが成立しない。『スタンド・バイ・ミー』は子供たちが銃やナイフを手にしているシーンがあるが、これだって現代の日本ではほぼ違法だし、法を無視して入手するのも難しい――それを可能になしてしまったら、その部分だけでドラマが成り立ってしまう。そもそも、『スタンド・バイ・ミー』のように、発見された死体がいつまでも放置されるような事態にはなりにくい。
 元を正せば、本篇が『スタンド・バイ・ミー』を意識して製作された、という裏付けもなく語っている。ただ、あの作品が描かれるドラマを現代の日本に置き換えると仮定した場合、極めて適切な方法で描いていることは間違いない。
 舞台は閉塞感が拭えない小さな集落、そこで人の輪に入り込めず、幼馴染みとむかし結成したグループの世界にいまも縋るかのような少年ロウマ。親の敷いたレールに従って医者を目指し東京に出たが、なにか鬱屈を抱えて夏休みに戻ってきた幼馴染みのトト。アイスランドからやって来て、最近になってロウマと友達になった、素性も真意も窺い知れないドロップ。こうして文字にするとなかなか闇があって、下手に描けば暗いトーンになりそうなところを、本篇は意識的にコミカルに描きだす。再会前後のどこか間の抜けたやり取りから、花火大会における騒動、そしてそこから冒険に至っても、本篇の基本的なトーンはひたすらに明るい。
 ただ、ロウマやトト、ドロップでさえも抱えている闇の部分は、旅が続くうちにスポットが当たり、ドラマを濃厚にしていく。基本のコミカルさは留めながら、負の感情を噴出させ、時として仲違いし、底から理解を深めていくさまは感動を呼ぶ。
 上手いのは冒険の導入とその距離感だ。制御を失ったドローンを、GPSの情報で位置を特定し探しに行く、という動機付けは、如何にも現代的でしかも理解しやすい。相手は個人が使うドローンなので必然的に移動距離も、未成年の主人公たちがどうにか辿り着ける範囲に収まっている。しかし、道なき道を辿る旅は決して容易ではなく、実際の距離以上の遠さ、広がりを感じさせる。不自然さのない範囲で、きちんと大冒険の感覚を生み出す工夫が巧みだ。ドローン越しに街の灯りが見えるほどに、それほど都市から離れていない場所、ということも明示しているが故に、身近なところで繰り広げられている印象が生まれている。それがキャラクターのみならず世界観への親しみやすさも作り、自然と惹き込まれてしまう。
 身近なところで醸成されるドラマと冒険が魅力だが、しかしその一方で、伏線も巧い。本篇は基本、ロウマの視点で描かれるが、彼自身が気づかなかった親友トトの鬱屈、そしてあえて追求する様子もなかったドロップの背景、といったものが、観客の関心を誘う牽引力として機能する。そして、細かな描写が後半に至って伏線となり、クライマックスで更なる感動を生む。いささか出来すぎという印象もあるし、敢えて残した謎にあざとさを感じる向きもあるだろうが、その“粗さ”が作品の世界観ともマッチして、いい味わいを出している。
 決して説教臭さはないが、その冒険のなかに、現実の厳しさを織り込みつつも、自らの夢や想いと向き合うポジティヴなメッセージがちりばめられている。『スタンド・バイ・ミー』ほど完成されているとまでは言わないが、間違いなく良質な冒険物語である。


関連作品:
サイダーのように言葉が湧き上がる』/『天気の子』/『SING シング』/『羅小黒(ロシャオヘイ)戦記~ぼくが選ぶ未来~』/『20世紀少年<最終章>ぼくらの旗
スタンド・バイ・ミー』/『E.T. 20周年アニバーサリー特別版』/『ローマの休日』/『空の青さを知る人よ』/『アイの歌声を聴かせて』/『リズと青い鳥

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