『魔女の宅急便(1989・4Kデジタルリマスター・IMAX with Laser)』

TOHOシネマズ新宿、ロビーに向かうエスカレーター手前に掲示された『魔女の宅急便(1989)』IMAX限定ポスター。
TOHOシネマズ新宿、ロビーに向かうエスカレーター手前に掲示された『魔女の宅急便(1989)』IMAX限定ポスター。

英題:“Kiki’s Delivery Service” / 原作:角野栄子 / 監督、脚本&プロデューサー:宮崎駿 / 製作:徳間康快、都築幹彦、高木盛久 / 企画:山下辰巳、尾形英夫、遠藤祝 / 絵コンテ:宮崎駿、近藤喜文 / 演出補佐:片渕須直 / キャラクターデザイン:近藤勝也 / 作画:大塚伸治、近藤勝也、近藤喜文 / 美術:大野孝司 / 色彩設計:保田道世 / 撮影:スタジオぎゃろっぷ / 編集:瀬山武司 / 音楽:久石譲 / 音楽演出:高畑勲 / 挿入歌:荒井由実『ルージュの伝言』『やさしさに包まれたなら』 / 声の出演:高山みなみ、佐久間レイ、山口勝平、戸田恵子、三浦浩一、信沢三恵子、関弘子、加藤治子 / 制作:原徹、スタジオジブリ / 配給:東宝 / 映像ソフト日本盤発売元:Walt Disney Japan
1989年日本作品 / 上映時間:1時間42分
1989年7月29日日本公開
2026年6月19日4Kデジタルリマスター版日本公開
2014年7月16日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD VideoBlu-ray Disc]
初見日・劇場不明(初公開時のどこか)
TOHOシネマズ新宿にて4Kデジタルリマスター版初見(2026/6/23)


[粗筋]
 魔女は13歳を迎えると、郷里を離れ、辿り着いた新しい町で独り立ちする、という掟がある。
 キキ(高山みなみ)は天気予報で、その夜が満月の晴れの夜であることを知ると、延期する予定をやめて、使い魔の猫・ジジ(佐久間レイ)とともに急遽出立した。目指したのは、海のある方角。
 だが、途中で雨に降られ、避難のつもりで乗り込んだ貨物列車の中で居眠りをしてしまったキキは、気づけば見知らぬ場所に行き着いていた。飛び立った先にあったのは、海辺の大きな街・コリコ。ひと目で魅せられたキキは、最近は魔女がいないらしいこの街を独り立ちの舞台に決める。
 意気揚々と乗り込んでいったキキだが、街の人はせわしなく、ふらりと迷い込んできた若い魔女に対して、ほとんど関心を示さない。唯一、軽薄そうな男の子たちが声をかけてきたが、キキは相手にしなかった。
 高台にあるパン屋の前で途方に暮れていると、店の女将・オソノ(戸田恵子)が、客の忘れ物を片手に飛び出してきた。これがないと赤ん坊がぐずる、というおしゃぶりを手に困っていた彼女に、キキは自分が届けてくる、と申し出た。無事に仕事を果たしたキキが、今夜泊まる場所も決まっていない、と知ったオソノは、店の裏にある空き部屋に泊まるように言うのだった。
 キキはオソノの頼まれ事をこなしたことで、自分が唯一使える魔法を活かして、宅配の仕事を始めることを思いつく。オソノは店の手伝いをすることを条件に、提供した部屋に住むことと、依頼の受け付けに店の電話を使うことを提案した。
 しばらくは店番をするだけの時間が続いたものの、遂に“魔女の宅急便”として最初の依頼がやってきた。プレゼントとして用意した、黒猫のぬいぐるみの入った籠を至急運んでほしい、という。意気揚々と飛び立ったキキだったが、思わぬトラブルが彼女を待ち構えていた――
 


[感想]
 スタジオジブリのアニメーション第1作は1986年『天空の城ラピュタ』である。『風の谷のナウシカ』と勘違いされがちだが、正確にはこの作品の制作会社はトップクラフトで、新たに改組される形でスタジオジブリとなった。その後、1988年に『となりのトトロ』と『火垂るの墓』という、いま考えてもとんでもない2本立てを発表した翌年、公開したのが本篇である。
 それまでの作品を上回る大ヒットとなり、スタジオジブリというスタジオと宮崎駿の名前を日本に強く印象づけたのには様々な要因があったと思われるが、作品の外側についてのことは省く。それよりも、まがりなりに先行するアニメ3作品すべて劇場で鑑賞し、『風の谷のナウシカ』もテレビ放送だったと思うがきちんと鑑賞していた私には、本篇はいささか物足りなく観えた。
 だが、初見から長い時を経て、他にも多数の映画、フィクションに接してきた目で改めて鑑賞すると、さすがと言うべきか、質は非常に高い。
 いちおう規則には添っているが、いささか無計画に旅立ち、気分で独り立ちをする街を選んでしまったキキ。当然のごとく様々な苦労、試練が待っている。様々な燕手であった人々に影響され、助けを借りながら、少しずつ着実に成長していく。
 構造的にはシンプルな成長ドラマだが、組み立てにそつがない。行動力はあるが計画性のない、まさに子供だったキキが、街での生活を成り立たせるため、たまたま請け負った“宅配”を自分の生業にする。依頼をこなし、人々と交流して、それぞれの最初の印象とは異なる実像、人情もあればいくぶん冷淡に思える側面にも出会い、、喜びも挫折も味わっていく。
 ジャンル的にはファンタジーだし、いささか誇張的な描写も多い一方で、人物造形は決して空想的ではない。パワフルで人情深いオソノさんがいれば、寡黙だがキキの瞳孔を間違いなく気にかけているオソノさんの夫、最初は軽薄そうな振る舞いだったが、その実、空に憧れて地道に努力していたトンボ、孫のためにパイを焼き、若くして働くキキを友人のように遇する依頼人。かと思えば、そんな心づくしのパイを喜ばない孫がいたり、キキを興味本位で眺めるトンボの友人のような人物もいる。
 魔女そのものに抵抗を持つ者、というものは描かれないが、ルールに抵触するような魔法の使い方を快く思わない者はいる、というのは、既に母によって魔法に対する理解の深まった故郷とはまるで異なる環境だろう。選び方はいささか軽率だったが、キキは確かに、彼女の見識を拡げてくれる世界に辿り着いた。
 そしてキキは大きな障害にぶつかる。この引き金はあまりに自然すぎる経緯で、初見のときからしばらくは「何故このタイミングで?」と取ってつけたような印象を受けたのだが、初見からだいぶ歳を重ねて鑑賞すると、状況としてはごくごく自然だ。細かな出来事の積み重ね、決定打となる直前の事件。影響が出てしかるべき時期であり、その後起きる変化も、通過儀礼としてとても納得がいく。この構成の巧みさ、自然さが、ファンタジーと言いながら地に足の着いた印象を物語に生み出している。
 キキが成長するために必然だったこの挫折二、手を差し伸べるウルスラというキャラクターの趣向も絶妙だ。魔法使いではないが、キキを魅了する絵の才能を持つ。困難に直面したキキに寄り添い、過剰に言葉を積み重ねるのではなく、穏やかに力づける彼女の姿は、観ているこちらまで胸が暖かくなる。声をキキ役の高山みなみが兼任しているのは元々の予定通りだったのか、収録の成り行きによるものなのか、いま確認出来ないのだが、同じ人物が演じたことは、まだ未熟なキキを、いくぶん経験を重ねた彼女自身が導くような、独特の快さを生み出している。本篇の映画としての見せ場は序盤や、このあとのクライマックスなのだけど、このキキとウルスラの交流は、不思議と心に残る。やはりこの作品の肝のひとつと言っていいと思う。
 初見の印象のままだと、ここも取って付けた感を拭えないクライマックスも、構成から俯瞰するとやはり必然なのだ。モチーフはかなり序盤から登場しているし、ここでキキが活躍するべき意義もきちんと仕込まれている。ひとつひとつの要素が認識できた上で巡り逢うクライマックスは、かつての記憶よりも感動が深かった。
 これはひとりの、決して優秀とは言えない魔女が成長し、自分の居場所を見つける物語だ。こう言葉で書くとあまりにもシンプルだが、本篇はそれをファンタジーとしての夢とロマンとを押さえながら、地に足の着いた、説得力のある表現で為し遂げた。スタジオジブリを国民的なアニメスタジオへと発展させる重要な契機となった本篇は、やはりそれだけの力を備えた傑作だったのだ、と思う。


関連作品:
ルパン三世 カリオストロの城(MX4D)』/『風の谷のナウシカ』/『千と千尋の神隠し』/『ハウルの動く城』/『ゲド戦記』/『崖の上のポニョ』/『借りぐらしのアリエッティ』/『コクリコ坂から』/『風立ちぬ
劇場版ゲゲゲの鬼太郎 日本爆裂!!』/『劇場版 怪談レストラン』/『ふたりはプリキュア Splash Star チクタク危機一髪!』/『コララインとボタンの魔女 3D』/『風が吹くとき
アーヤと魔女』/『魔女見習いをさがして』/『メアリと魔女の花』/『奥さまは魔女』/『魔女がいっぱい』/『ショコラ(2000)』/『イリュージョニスト』/『コロンブス 永遠の海

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