『劇場版SHIROBAKO』

TOHOシネマズ上野、スクリーン3入口脇に掲示されたチラシ。
原作:武蔵野アニメーション / 監督、絵コンテ、演出&音響監督:水島努 / 脚本:横手美智子 / キャラクター原案:ぽんかん⑧ / キャラクターデザイン&総作画監督:関口可奈味 / 美術設定&プロップデザイン:宮岡真弓 / 3D監督:吉川元成 / 色彩設計:中野尚美 / 撮影監督:梶原幸代 / 編集:髙橋歩 / 音楽:浜口史郎 / 主題歌:fhana『風をあつめて』 / 声の出演:木村珠莉、佳村はるか、千菅春香、高野麻美、大和田仁美、佐倉綾音、松風雅也、檜山修之、斎藤寛仁、浜田賢二、山岡ゆり、米澤円、葉山いくみ、田丸篤志、松本忍、間島淳司、高梨謙吾、伊藤静、日野まり、茅野愛衣、沼倉愛美、山川琴美、井澤詩織、小柳基、西地修哉、吉野裕行、小林裕介、中原麻衣、こぶしのぶゆき、興津和幸、濱野大輝、鈴村健一、湯浅かえで、室元気、櫻井孝宏、横尾まり、菅野雅芳、高木渉 / アニメーション制作:P.A.WORKS / 配給:Showgate
2020年日本作品 / 上映時間:1時間59分
2020年2月29日日本公開
公式サイト : http://shirobako-movie.com/
TOHOシネマズ上野にて初見(2020/03/19)


[粗筋]
 テレビシリーズ『第三飛行少女隊』を無事完成に漕ぎつけ、宮森あおい(木村珠莉)は“かつての仲間たちと一緒にオリジナルアニメを作る”という夢に一歩近づいた――かに思えたが、それから4年、彼女は思わぬ苦境に立たされていた。
 あおいが制作として勤務する武蔵野アニメーション、通称ムサニは、放送2ヶ月前に契約上の不備が発覚、既に第10話まで着手していた新作が制作中止に追い込まれた。社長の丸川正人(高木渉)が引責辞任して、この“タイマス事変”と呼ばれた事態は収束したが、それ以降、元請けの仕事は受注できなくなり、多くのスタッフが社を離れてしまう。
 灯りの消えたような社屋で細々と下請けの仕事をこなし鬱屈を抱え込んでいたあおいだったが、転機は突然に訪れた。丸川のあとを継いで社長に就任した渡辺隼(松風雅也)がある日、あおいを呼び出すと、彼女に『空中揚陸強襲艦SIVA』と題された企画書を示す。
『空中揚陸強襲艦SIVA』は『第三飛行少女隊』でムサニと共に製作に携わったメーカー、ウエスタンエンタテイメント所属のプロデューサー葛城鋼太郞(こぶしのぶゆき)が2020年2月の公開を目指して製作を手懸けた作品だったが、元請けとして受注した制作スタジオげーぺーうーは、当初完成を約束していた公開1年前の時点にして絵コンテ僅か4枚しか進行させていなかったことが判明する。既に公式サイトとティーザー予告編はリリース済であり、何らかのかたちで完成まで持ち込まねばいけない状況にある。
 一般的にオリジナルの劇場用アニメーションを制作するためには2年は必要と言われているが、公開予定日まで既に1年を切っている。どんなスタジオでも躊躇する案件であり、まして“タイマス事変”の影響により著しく消耗したムサニには重い案件だった。しかし、退職後に趣味だったカレー作りを活かして飲食業に転身した丸川に「前に進まなきゃ」と助言されたあおいは、窮状だからこそこの難しい企画に着手することを決意する。
 引きこもり状態になっていた監督の木下誠一(檜山修之)をはじめ、“タイマス事変”で散り散りになっていた同僚や仲間たちにも呼びかけ、あおいは制作を始める。果たしてあおいは無事、公開日までに、完成品を収めた“白箱”に仕上げることが出来るのか……?


[感想]
 登場する声優多すぎです。どこまで書いていいのか解らなくなりました。

 だが、演者が多くなるのも致し方ない。いちおうメインとなるのは宮森あおいと彼女の高校時代からの仲間、というのがテレビシリーズからの原則のようだが、アニメーションの制作過程をリアルに再現した本篇は必然的に関わる人間が多くなる。作中で制作するアニメのキャラクターについては、現実サイドの人物を演じた声優が兼任したものがほとんどと考えられるが、そもそも現実側に求められる役職、作業工程が多いのだから、出てくるキャラクターが増え、役者もとんでもない数になるのは当然だろう。
 ちらっと触れたとおり、本篇は前提となるテレビシリーズが存在しており、本篇はそれから4年後の出来事を描いている。但し、必ずしもテレビシリーズを観ている必要はない。実際、テレビシリーズに目を通さず鑑賞した私が充分に楽しめたのだから、ある程度察しが良ければ問題はないはずだ。
 前提を知らずとも楽しめるいちばんの理由は、本篇が群像劇の体裁を採っていることによるところが大きい。アニメーション制作は関わる人間が多く、そのプロセスを描くなら、乱暴な省略を避ける限りは多くのキャラクターを登場させることになる。それぞれの個性や信念をないがしろにしたくなければ、それぞれの持ち時間のうちに各々の意志や何らかの見せ場を用意しなければならない。恐らくはテレビシリーズでそのスタイルをきっちりと確立させたであろう本篇は、このあたりの匙加減が巧く、予備知識なしでも人物関係や、それまでの過去を巧みに匂わせる。
 この呼吸の巧さは、そのまま作品としての面白さにも繋がっている。劇場用アニメ作り、という大きな目的だけだと単調なドキュメンタリー風になりかねないが、その周りに各個のキャラクターのドラマが繰り広げられることにより、変化とうねりが生まれる。
 作業工程は基本リアルだが、そこにフィクションならでは、アニメーションならではのお遊びも組み込まれているから、なおさら面白い。引きこもり状態だった監督を引きずり出す経緯であるとか、劇伴を依頼するくだりのやり取りなど、現実にあっても不思議のない描写でくすぐる一方、ここぞというところでアニメらしい、非現実的な趣向を仕掛けてくる。
 とりわけ強烈なのは、中心人物である宮森あおいが劇場用アニメ制作を決断した瞬間のミュージカルパート(!)だ。あおいの心の声を代弁するキャラクターに加え、どうやらテレビシリーズにて彼女たちが制作していたアニメーションのキャラクターやヴィジュアルを流用したらしいこのパートの異様な華やかさは、アニメであるがゆえの贅沢さを体感させてくれる。しかもその前後で、アニメを作るということがどれほどの手間を要するか、を実に丹念に描いているだけに、余計にこのくだりの印象が強まるのである――実在するスタッフの苦労を想像してしまうが故に。
 もうひとつ、凄まじい熱量を籠められているのが、作中作である『空中揚陸強襲艦SIVA』のクライマックス・シーンだ。当然ながらここに本筋であるアニメを作るひとびとの姿は入り込んでいないのだが、しかし観客はその向こうに彼らの積み重ねた苦労を、封じ込めた情熱を観る。作中作全篇を組み込んでいるわけではないから、その作品の中におけるこのクライマックスが持つ価値は不明なのだが、『劇場版SHIROBAKO』のクライマックスとしては完璧なほどに成立している。
 アニメ制作の現場は決して華やかではない。しかしそこにあるやり甲斐や達成感を、観客に実感としてきちんと伝える、優秀な内幕もの映画である。テレビシリーズを観ていなくとも、ちょっとでも関心を持ったなら、是非とも劇場で鑑賞するべきだ。

 ……作品の出来にほとんど関係ないことなので触れずに済ませようかと思ってましたが、どーしても引っかかるので、末尾にひとつだけ指摘しておきたい。
 最後の場面で訪れている映画館、そこは飲食持ち込み禁止ではないんでしょうか?
 テレビシリーズの大前提にあるお約束をどうしても採り入れたかったのは解る。解るけど、映画館の利益にも関わることなんだから、もうちょっと神経を遣って欲しい。
 ていうか、あのシーンを入れるなら、いっそ映画館とコラボしてコンセッションで売ればいいのに。売ればいいのに。それとも私の鑑賞した劇場で扱ってなかっただけ?


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コメント

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