ねじの回転 ――心霊小説傑作選

ねじの回転 ――心霊小説傑作選 『ねじの回転 ――心霊小説傑作選』

ヘンリー・ジェイムズ南條竹則坂本あおい[訳]

Henry James“Turn of the Screw and other ghost stories”/translated by Takenori Nanjoh & Aoi Sakamoto

判型:文庫判

レーベル:創元推理文庫
版元:東京創元社
発行:2005年4月15日

isbn:4488142052

本体価格:800円

商品ページ:[bk1amazon]

 晦渋で知られるヘンリー・ジェイムズの代表作である『ねじの回転』を、極めて正統派の怪奇小説と捉えて訳を改め、また同時にホラー小説的風合いの強い短篇四本を併せて収録した本邦初の心霊小説傑作選。不埒な召使いふたりの亡霊に取り憑かれた子供達の家庭教師を任された女性が目の当たりにする異様な出来事を綴る表題作、仲の良い姉妹が同じ男性に抱いた恋情を契機に引き裂かれていく『古衣装の物語』、ある親子と放置された家屋を巡る怪談『幽霊貸家』、軍人一族の伝統を抜け出そうとした若者とその教師の巡りあう怪事を描く『オーエン・ウィングレイヴ』、夫の伝記を編もうとした未亡人と筆者の傍らに死者が佇む『本当の正しい事』の全五篇。

 忸怩ながらこれほどの書き手の存在をいままで知らなかった。なるほど晦渋だが、いわゆる怪談の定石を見事に踏まえたうえで、重層的な解釈の可能な物語を構築しており、始終唸らされた。

 特に表題作の奥深さはいちど二度読んだだけでは語ることさえ困難という気がする。何せ、間違いなく怪談でありながら、具体的な現象といえばそれらしきものが屋敷を徘徊する様を幾度か目撃するだけ、語り手である家庭教師に直接攻撃を仕掛けるわけでも、何らかのアプローチを行うわけでもない。しかし、その存在を意識していることが、確実に家庭教師や子供達の思考に影響を齎し、彼らの関係に間断なく緊張を強いている。本邦の怪談のようなじわじわと染みこんでくる恐怖ではなく、常に締めつけられるが如き厭な感覚がつきまとっている。感性の違いを意識せずにはいられないが、これもまた怪談に対する深い造詣あってこそ成し遂げられる描写であろう。

 物語が幕を下ろしても、いったい何が起きていたのか、そしてどんな決着を見たのか、いまいちすとんと腑に落ちない。たとえばマイルズ少年が放校の憂き目を見た本当の理由もそうだし、家庭教師が見ていたものの真偽とその意図も定かではない。また、舞台となる郊外の屋敷を離れていった人々のその後も一切綴られないままであることにもどかしさを感じる向きもあるだろう。だが、なまじ説明されるよりも遥かに不気味な余韻を残すと共に、この曖昧な括りが多くの解釈を許容する。解説において採りあげられているようなフロイト心理学的な抑圧説を選ぶのもいいだろうし、シンプルに家庭教師の目撃談を鵜呑みにして、亡霊たちの文字通り悪鬼のような所業に震えるのも捉え方のひとつだ。

 それだけに、受け身の姿勢で読んでいると拍子抜けの感を味わうことも必至だろう。言葉のひとつひとつを吟味し、そのあいだに秘められた背景や意図を自分なりに汲み取って楽しむべき一冊である。

 しかし個人的には、直接の目撃者や影響を受ける人物ではなく、その周辺にいる者の視点から怪異を綴る、という方法論を、百年以上も前に極めて高いレベルで実現していた書き手がいた、という事実に何よりも驚かされた。それもごく洗練された筆致で――と感じるのは、今回新たな訳を手がけた訳者おふたりの功績によるものかも知れない。

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