妖弄記

妖弄記 妖弄記

加藤一

判型:B6判ソフト

レーベル:LUNATIC WALKERS

版元:MICRO MAGAZINE
発行:2005年5月9日

isbn:4896371895

本体価格:524円

商品ページ:[bk1amazon]

新耳袋』シリーズによって実話怪談界の第一人者となった木原浩勝氏監修による、実話怪談から創作ホラーまでを網羅するシリーズ“LUNATIC WALKERS”の第一回配本作品となる本書は、『新耳袋』と双璧を為すシリーズ『「超」怖い話』を現在平山夢明氏とともに手がけている加藤一氏が集めた怪談のなかから、いわゆる幽霊や漠然とした話ではなく、具体的な姿形を備えながらも常識を逸脱した存在――“妖怪”に類すると思われるものの目撃譚ばかりを集めた作品。

 題名からして“妖”怪を“弄”ぶ記、とかなり不遜なものだが、内容も一風変わっている。文体や語り口は『禍禍』や『「超」怖い話』の著者受け持ちパートと同じ印象だが、思わぬところから奇妙なものがひょっこりと姿を現し、また忽然と姿を消したり、目撃者が蹌踉と逃げ出していくさまは、当事者には申し訳ないけれどどうにも滑稽で、全般にゆるい笑いを誘うようなエピソードが多い。もともと“恐怖”と“笑い”とは紙一重、という説があるくらいだが、本書にあってはその紙一重を突き破った話が大半を占めている、といった印象だ。

 妖怪に詳しくないから、と前書きにおいて言い訳しているが、そのために個々に現れる“奇妙なモノ”を基本的に「これは何々だ」と規定していないことが、更に本書を特徴的にしている。いわゆる妖怪好きが手がける妖怪本は大抵妖怪の名前や定義が先にあって、そこに目撃談や風聞を当て嵌めていくか、逆に説明不可能な事象に対して妖怪の名前を与えることで類型の談話を一本化するのが通常であり、先に目撃談ありき、という纏め方は実は珍しい。

 たとえばこれは河童(本書では“ひょうすぼ”と呼ばれている)、これは天狗、或いは狸、と目撃者が既に名付けているものもあれば、具体的な名前は挙げられていないがその特徴から詳しい人であれば「ああ、これ目目連だ」「それって完璧に一反木綿だろ?!」と指摘できるようなものも多々ある一方で、明らかに幽霊ではないしかなり明確な“肉体”を備えているようだけれど常識では説明しきれない代物――つまり新種の“妖怪”と呼ぶしかなさそうな存在がこれほど登場していることに驚かされる。正直なところ、幾つかはさすがに作り話ではないか、と疑いたくなるのも事実なのだけれど、夕日を覆うほど巨大な顔とか、自衛隊の飛行機と並行に飛ぶ鯨もどき、なんてものを敢えて創作する人はそうそういるまい。

 著者の名前から怖い読み物を期待するとだいぶ期待外れになってしまうだろうけれど、その奇妙な手触りと愉快さ、統一感の高さもあって読み物として充分なクオリティにある。著者の旧著に親しんでいる方は無論のこと、妖怪ファンや「あんまり怖いのは厭だけどちょっと変わった話なら好き」という困った読者にもお勧めできる、お手頃な一冊。

 コンビニを中心にした販売を想定しているためか本文の紙質がいまいちで、カバーの加工も剥がれやすいのが難だが、この内容がリーズナブルな価格で楽しめるのだから、我慢するべきところかも知れない。

 ただ、シリーズとしてやっていくうえで問題だと思うのは、通常読み物でこの価格なら文庫版と考えがちだが実際はB6判――近年、コンビニ中心に販売されている廉価版コミックと同じ感じのサイズと装幀になっており、そうと知っていないとなかなか見つけられないこと。また、実際にはコンビニ専売ではないのに書店への配本が少なく、結果的にコンビニでも書店でも目にする機会が少なくなってしまったことだ。事実、日頃から大手書店を渡り歩き、コンビニも普通に利用している私が、結局取り寄せの入荷連絡が入るまでいちども店頭で目撃しなかったのだから、その品薄感は尋常ではない。

 いっそ完全にコンビニのみで捌くなり、はじめからある程度の部数を用意するなりしていかないと、結局シリーズとして定着することなく消滅してしまうのでは、という危惧を覚える。早いうちに何らかの対策を打ち出していただきたいところ――というのは本書の感想としてではなく、編集者や出版社に対して言うべきことかも知れないけれど、いちおう。

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