『L project』

L project [DVD]

原題:“The Lazarus Project” / 監督・脚本:ジョン・パトリック・グレン / 原案:エヴァン・アストロウスキー / 製作:デヴィッド・ホバーマン、トッド・リーバーマン、マット・マイリック、トラヴィス・ライト / 製作総指揮:ビル・ジョンソン、ジム・セイベル、アンドリュー・マン、ボビー・シェン、ジェフ・アバーリー、ジュリア・ブラックマン、アダム・W・ローゼン、マーティン・ウィレイ、アルバート・ペイジ / 撮影監督:ジャージージーリンスキー,ASC / プロダクション・デザイナー:ジェレミー・レッド / 編集:フレッド・ラスキン / キャスティング:アン・マッカーシー、ジェイ・スカリー / 音楽:ブライアン・タイラー / 出演:ポール・ウォーカーパイパー・ペラーボランバート・ウィルソン、リンダ・カーデリーニ、ショーン・ハトシー、マルコム・グッドウィン、ブルックリン・プルール、トニー・カラン、ボブ・ガントン / マンダヴィル・フィルムズ、インフェルノディストリビューション、ビー・グッド・プロダクションズ製作 / 映像ソフト発売元:角川映画

2008年アメリカ作品 / 上映時間:1時間38分 / 日本語字幕:?

2010年1月29日DVD日本盤発売 [bk1amazon]

公式サイト : http://www.kadokawa-pictures.co.jp/official/the_lazarus_project/

DVDにて初見(2010/03/04)



[粗筋]

 窃盗罪で有罪判決を受けたベン・ガーヴィー(ポール・ウォーカー)は、長い仮釈放期間を終え、ようやく完全な自由を手に入れる日を迎えた。職場であるビール醸造所での覚えも良く、落ち着いたら妻のリサ(パイパー・ペラーボ)、娘のケイティ(ブルックリン・プルール)と共に、湖畔の家に越し、静かに暮らすつもりでいた。

 しかし、いよいよというときに、勤め先の本社に前科がバレ、上司が意図していた栄転の話はもとより、会社に籍を置くことも許されなくなってしまう。突如として追い込まれたベンは、弟リック(ショーン・ハトシー)から持ちかけられていた倉庫破りに荷担するが、そこで思いがけず銃撃戦に陥り、気づいたときには一緒に潜入した面々も、警備員も倒れていた。

 自身は危害を加えた覚えはなかったが、ベンは殺人で有罪となり、死刑に処される。薬品を投与され、意識を失い――気づいたときには、見知らぬ田舎道を歩いていた。

 彼がいたのは、オレゴン州。そこでベンを拾ったエズラ神父(ボブ・ガントン)は、彼を自らが責任者を務める療養所の管理人として招き入れた。自分は死刑になったのではなかったのか? 何故こんなところに放り出されているのか? 妻と娘はいま、いったいどうしているのか……様々な疑問を抱えながらも、ベンはエズラ神父に話を合わせ、療養所での生活を始める……

[感想]

 意味深なタイトル、死刑を執行されたはずの男が経験する新たな生――と、題材は極めて魅力的だが、生憎と、それらを活かした作品とは言い難い。

 出だし、仮出所中の期間、心身を律して過ごし、完全に改悛したと思われた主人公がやむなく再び犯罪に手を染める経緯には説得力が備わっている。だが、あの状況で安易に彼が殺人犯だと断じられたのが妙に解せず、そのあたりから随所に不自然さが見受けられる。これといって解明も弁解もないままに死刑を経て、本筋に入っていくのだが、このあたりは主人公の行動も咄嗟に理解できない――ただ、記憶も薄れ己の所在も咄嗟に認識できない状態では、簡単に他人の言葉に流されてしまう可能性は大きいので、まるっきり理解できないわけではない――し、周囲の言動は更に不可解だ。そして、その不可解さを引きずったまま、淡々と話は進む。

 心理スリラーとして捉えるにはヤマに乏しく、終盤でのどんでん返しを期待したくても、そもそも何が謎なのかがいまいち伝わってこない。主人公はある要素に幻惑され、己がどんな立場にいるのか、正気か狂っていくのかに惑うことになるが、客観的には何故そんな迷いを生じるのかさえ訝りたくなる推移だ。

 せめて最後でこうした違和感、疑問が綺麗に払拭されていればまだしも、結末を迎えても多くの謎は残ってしまっている。いやむしろ、現実的にあり得ない要素が多すぎて首肯しがたい。

 何をしたかったのかは解るし、その発想自体は面白い。しかし、折角の着想に説得力を与える工夫がまったくなされていないのは問題だ。ここで語られる背景を実行に移すならば、発覚を防ぐための配慮がもっと緻密になされていて然るべきだろう。予算が乏しくそこまでの構築が出来なかった、というのは言い訳にならない。むしろ、だからこそ限られた空間のなかで繰り広げられていて良かった物語だと思う。

 主人公を演じたポール・ウォーカーの、心根は優しいのにやむを得ず犯罪に手を染め、そして知らず知らずのうちに奇妙な境遇に追い込まれていた男の苦悩を、淡々とした表情に刻みこんだ静かで豊かな演技、ボブ・ガントンやランバート・ウィルソンが見せる謎めいた雰囲気など、俳優陣は概ね好演と言っていい。決して血は流れず、派手さはないながらも一定の緊張感と牽引力を備えた演出にも好感が持てる。館ものホラーを意識したようなロケーションの魅力も否定しがたい。だが、脚本の段階での練り込みが浅すぎて、こうした心理的スリラーにあるべき衝撃を描ききれなかったどころか、却ってモヤモヤとした後味を残す仕上がりとなってしまった。それなりに名の通った俳優が出演しているにも拘わらず、劇場公開されることなくDVDでリリースされる類の作品はたいていそうしたものだが、前提がとてもよく出来ているだけに尚更惜しまれる1本である。

関連作品:

イーグル・アイ

キャビン・フィーバー

ロード・キラー

父親たちの星条旗

ワイルド・スピードMAX

地獄の変異

デッド・サイレンス

バビロン A.D.

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