『ザ・ミッション/非情の掟』

ザ・ミッション 非情の掟 [DVD]

原題:“鎗火” / 監督:ジョニー・トー / 脚本:ヤウ・ナイホイ、ミルキーウェイクリエイティヴ・チーム / アクション監督:チェン・カーサン / 撮影監督:チェン・チュウキョン,HKSC / 美術:ジェローム・ファン / 編集:アンディ・チャン,HKSE / 音楽:チュン・チーウィン / 出演:アンソニー・ウォンフランシス・ン、コウ・ホン、ラム・シュー、ロイ・チョン、ジャッキー・ロイ、サイモン・ヤム、ウォン・ティンラム / 銀河映像(香港)有限公司製作 / 配給:ヤン・エンタープライズ / 映像ソフト発売:GROOVE PICTURES

1999年香港作品 / 上映時間:1時間21分 / 日本語字幕:?

2001年9月1日日本公開

2002年2月25日DVD日本盤発売 [amazon]

DVDにて初見(2010/05/18)



[粗筋]

 裏の世界に関わった者は、たとえいちど足を洗おうと、いざというときにはふたたび召集され、新たな任務を与えられることがある。彼らに許されるのは、粛々と使命を果たすことだけだ。数多く存在する掟に背けば、重い罰が与えられる――

 組織のボス、ブン(コウ・ホン)が経営するスーパーボウル飯店で襲撃された。部下の犠牲で命からがら逃げ延びたが、黒幕を炙り出さない限り、繰り返し狙われる危険がある。しかし、物々しい警備は却って目立つ、というブンの判断を受け、弟のナン(サイモン・ヤム)は選りすぐりの5人の男をボディガードとして呼び寄せた。

 ブンたっての願いで招かれたのは、かつて“氷の男”と恐れられたが、現在は足を洗って美容師として生計を立てているグヮイ(アンソニー・ウォン)。ほか、組織のシマでバーを営むロイ(フランシス・ン)と彼のもとで働きはじめたばかりのシン(ジャッキー・ロイ)、風俗店の客引きをしているマイク(ロイ・チョン)に、銃器の調達などをしているフェイ(ラム・シュー)。

 いずれも個性的な面々は、最初こそ軽い摩擦を起こしていたが、それぞれにプロフェッショナルとしてブンの身辺警護に努めるうちに、少しずつ絆を形作っていった。だがこの危険だが単純明快な“ミッション”はやがて、5人の男達を思いもかけない運命へと導いていく……

[感想]

 私はまだジョニー・トー監督作品を漁り始めて日が浅く、年代的には本篇が一番古い作品となるようだ。しかし、幾つかの作品を鑑賞したあとで本篇に触れると、監督の映画作りに対する、一貫した信念のようなものが既に感じられる。

 とにかく、ブレがほとんどない。際立ったキャラクター作りに、随所で繰り広げられる、趣向に富んだ銃撃戦。それらにドラマや伏線を巧みにちりばめ、クライマックスで見事に回収してしまう手際の素晴らしさ。しかもこれを、常に100分程度の程よい尺にきっちり納めている。

 そこには、ジョニー・トー監督が基本的に同じスタッフ、キャストを起用し続けているが故の連帯感、安定感も寄与しているように思う。撮影監督はほぼ不動で同じ人物が担当しているし、脚本でもヤウ・ナイホイという書き手が“トー組の頭脳”と呼ばれるほど定着している。同じ役者も、ひとりや二人程度なら繰り返し起用し続けることは珍しくないが、ジョニー・トーほど何度も(言い方は悪いが)使い回している監督はいないだろう。短期間に立て続けに鑑賞したせいで、サイモン・ヤムやラム・シューの顔はすっかり覚えてしまった。

 しかし、同じスタッフ、俳優を起用し、似通った雰囲気を醸し出していても、この監督の作品にはマンネリや、別の作品を混同してしまうことがない。それこそ、作品毎に作り上げるキャラクターの完成度の高さや、ストーリー、或いはアクション・シーンに組み込んだ工夫の多さ、印象の強さが貢献している。

 本篇でいえば、まず導入の何処か散漫としたトーンからして印象的だ。それぞれ市井に埋もれているような5人の男たちが、組織のボスにボディガードとして招集されるなり、プロの顔に切り替わる。それぞれに矜持や野心があってたびたび反発し、日常の中にも緊迫感が宿る。

 その一方で、弛緩をもたらすユーモアもきちんと盛り込んでいる。ひとりが煙草に仕込んだイタズラはあとで意外な効果を上げているし、クライマックスの最も剣呑とした場面でラム・シューが見せる芝居など、なまじ瀬戸際にいるだけに、ユーモアと迫り来る狂気が共存しているかのような、異様な空気が味わえる。

 しかし、表現という意味で最も印象的なのは、物語も終盤に近づいたあたりの一幕である。商談途中と思しいボスを、5人がオフィス通路で待っている場面なのだが、この何気ないシーンにこめられたものの豊饒さに、あとで慄然とさえする。緊迫の狭間に織り込まれた僅かな憩いのひと幕でありながら、そこに5人の人物像が見事に描かれ、彼等がこの任務のあいだに築いた人間関係までが窺い知れる。さらに言えば、このひと幕そのものが、クライマックスの導入の役割さえ果たしているのだ。私にジョニー・トー監督作品を推し、入手困難な本篇のDVDを貸して下さった方は、数ある映画の中でいちばん好きなシーン、と語っていたが、非常に頷ける。少なくとも、ジョニー・トー作品の美点を何よりも如実に象徴する場面であるのは間違いない。

 銃撃をメインとしたアクションの豊かな見応えについては言うまでもないだろう――率直に言えば、銃器の性能を超越したような扱い方にちょっと引っ掛かりを覚えるし、ストーリー全体のトーンとアクション・シーンの外連味とのバランスという意味では幾分ぎこちなさがある。しかしそれも、先に『エグザイル/絆』の驚異的な完成度を先に目の当たりにしているからであって、当時は無論のこと、今の時点から眺めても、他のガン・アクション映画よりもずっと個性的で、質にも秀でている。

 そして、それらを集約したクライマックスの緊迫感、ある意味で人を喰ったような顛末が忘れ難い。驚きと、些か虚しい余韻とともに、爽快感さえ漂わせる、こんな締めくくりにはそうそうお目にかかれるものではない。

 個人的には、同じスタンスを取りながら更に洗練され、研ぎ澄まされた感のある『エグザイル/絆』をより高く評価するが、本篇なくしてあの作品は成立しない、と言えるほど重要な一本であり、そのことを抜きにしても、途轍もない傑作であるのは確かだ。――これほどの作品が現在、セルでもレンタルでも入手困難になっている、というのはあまりにもったいない。

関連作品:

エグザイル/絆

ターンレフト ターンライト

エレクション〜黒社会〜

エレクション〜死の報復〜

PTU

スリ

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