『失われた週末』

失われた週末【ユニバーサル・セレクション1500円キャンペーン/2009年第4弾:初回生産限定】 [DVD]

原題:“The Lost Weekend” / 原作:チャールズ・ジャクソン / 監督:ビリー・ワイルダー / 脚本:チャールズ・ブラケットビリー・ワイルダー / 製作:チャールズ・ブラケット / 撮影監督:ジョン・サイツ / 特殊効果:ゴードン・ジェニングス / 編集:ドーン・ハリソン / 衣装:イーディス・ヘッド / 音楽:ミクロス・ローザ / 出演:レイ・ミランドジェーン・ワイマン、フィリップ・テリー、ドリス・ダウニング、ハワード・ダ・シルヴァ、フランク・フェイレン / 配給:パラマウント×セントラル

1945年アメリカ作品 / 上映時間:1時間41分 / 日本語字幕:?

1947年12月30日日本公開

2011年2月16日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Videoユニバーサル最新版(絶版):amazon|DVD Video廉価版:amazon]

初見時期不明(1990年前後だと思う)

DVD Videoにて再鑑賞(2011/05/21)



[粗筋]

 ダン・バーナム(レイ・ミランド)は小説家だが、長年スランプに陥っている。目下、その最大の原因は、酒だった。なかなか書けないことを苦にして一杯呷り、瞬間、素晴らしいアイディアが湧いたように錯覚したのが間違いの始まりだった。以来、やめようとしても止められない。

 いちど、意識せずに酒を断つことが出来た時機もある。きっかけはヘレン(ジェーン・ワイマン)との出逢いだった。オペラ劇場で偶然に出逢った彼女への見栄と恋心から、しばらくのあいだ酒の誘惑から逃れられたが、彼女の両親に初めて紹介されるはずだったその日、緊張と恐怖から手を出し、ほんの1杯のはずが、気づけば歯止めを失っていた。

 以来、診察も受け、何とか禁酒する努力を重ねたが、誘惑を拒絶しきれず、3年の月日が過ぎた。ようやく一段落し、兄のウイック(フィリップ・テリー)の薦めにより、旅行に赴くはずだったその週末、ダンは初めて、アルコール依存症という地獄を本格的に悟らされることとなる……

[感想]

 本篇を初めて観たのは20年近く前になる、と記憶している。他の家族が全員泊まりがけで出かけており、ひとりの時間を持て余した挙句に、家にあったビデオのなかから何となく興味を持ったものをかけたのである。当時はさほど映画が好きというわけでもなかった私がどうしてこれを選んだのか、今となってはまったく思い出せないが、成人して、酒は飲めるが泥酔することを怖れてあまりたくさん飲まないようになったのは、たぶん本篇がトラウマになっているのだろう。

 私がこれまでに鑑賞したビリー・ワイルダー監督作品は、緻密なプロットと練られた台詞による、意外性のある展開と、巧妙な伏線に支えられた切れ味のある結末などが魅力であった。加えて、プレイボーイが殺されないように手を貸した結果そのプレイボーイに恋してしまう女性であるとか、自分のアパートを上司の逢い引きのために貸している、とか、導入のアイディアに優れていることも大きな特徴だった。

 そういう認識からすると、本篇の発想も展開の手法も至ってストレートだ。酒を断てない男が、ある週末に経験した末期症状を、シンプルに追っているに過ぎない。

 だが、この題材は基本それだけで充分だ、と判断したゆえなのだろう。実際、妙な小細工なしでもこの作品は充分にスリリングで、恐ろしい。どう足掻いても酒の誘惑を断てない、ということの恐ろしさが、強烈な説得力で描き出されている。

 ただ、それで終わらないのがさすがだ。というよりは、アルコール中毒というものが、週末を乗り切った程度で解決できるほど単純でないことを、きちんと研究したからこそ解っていたのだろう、この物語では、アルコール中毒が治りました、などという嘘を用いずに、伏線を活かした運命的な経緯で締めくくっている。普通にありそうな出来事だが、このタイミングで提出するあたりが小粋で憎い。そして、アルコール中毒というものの現実を知っていれば、さもありなん、と頷ける冒頭の出来事を、そのままエピローグに流用する構成の巧みさにはひたすらに唸らされる。

 ダンを演じたレイ・ミランドは、本篇出演以前はどちらかと言えば大根役者、という評価だったそうだが、本篇ではアルコールによって次第に理性を失っていく男を、鬼気迫る演技で体現している。強いて言うなら、手が震える、とか、足取りがおぼつかない、といった肉体的な変化があまり出ていないのが若干引っ掛かるが、基本的には平静に見える男が、酒に絡むところでは狂気を示す、という点に表現が集約されているので、そこを批判するのは意味がないだろう。

 当時も今も変わらず、酒は老若男女、階層や貧富の差を問わず、嗜好品として愛されている。節度を以て嗜めば健康にも寄与するが、しかし依存すれば本人にも周辺にも不幸をもたらすものであることも変わっていない。酒に狂う人々の姿は今後もフィクションの中でたびたび描かれるだろうし、それを真っ向から、品性を保ちつつも濃密な狂気を滲ませて描ききった本篇は、いつまでも警告としての役割を果たし続けてくれるに違いない――とりあえず私は今後も、酒は飲み過ぎるまい、という決意を新たにした。お酒怖い。

 観たのが随分昔であるがゆえに、細部はほとんど記憶していなかったのが、唯一鮮明に記憶していたのが、“小動物の幻覚を見る”という部分だった――が、実際に見ると、漠然と覚えていたものと登場する小動物が違っていたのに驚いた。実は主人公ダンが作中で目にした、とされるものではなく、直前に収容されたアルコール中毒専門の療養所のひと幕で、別の中毒者が見ている幻覚であり、作中ヴィジュアルとしては再現されず、看護士の証言として登場するだけだったのである。

 ……まあ、実際に描かれていなくとも、観た、と錯覚するくらいに、看護士が語るその“幻覚”が生々しく、とっても気持ち悪かった、ということはご理解いただけると思う。むしろあれと同じものをダンに見せなかったのは、製作者の良心だろう。

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