『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密(3D・字幕)』

『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密(3D・字幕)』

原題:“The Adventures of Tintin : The Secret of the Unicorn” / 原作:エルジェ『タンタンの冒険』シリーズ(福音館書店・刊) / 監督:スティーヴン・スピルバーグ / 脚本:スティーヴン・モファット、エドガー・ライトジョー・コーニッシュ / 製作:スティーヴン・スピルバーグピーター・ジャクソンキャスリーン・ケネディ / 製作総指揮:ケン・カミンズ、ニック・ロドウェル、ステファーヌ・スペリ / 共同製作:キャロリン・カニンガム、ジェイソン・マッガトリン / シニア視覚効果監修:ジョー・レッテリ / 視覚効果スーパーヴァイザー:スコット・E・アンダーソン / アニメーション・スーパーヴァイザー:ジェイミー・ベアード / 美術監督:アンドリュー・L・ジョーンズ、ジェフ・ヴィシニェフスキ / 編集:マイケル・カーン,A.C.E. / 音楽:ジョン・ウィリアムズ / 声の出演:ジェイミー・ベルアンディ・サーキスダニエル・クレイグサイモン・ペッグニック・フロストトビー・ジョーンズ、マッケンジー・クルック、ダニエル・メイズ、ガド・エルマレ、ジョー・スター / 配給:東宝東和

2011年アメリカ作品 / 上映時間:1時間47分 / 日本語字幕:戸田奈津子 / 字幕協力:ムーランサール・ジャパン

2011年12月1日日本公開

公式サイト : http://tintin-movie.jp/

TOHOシネマズスカラ座にて初見(2011/12/03)



[粗筋]

 新聞記者であり、数々の武勇伝で知られるタンタン(ジェイミー・ベル)は、ある日ノミの市でユニコーン号の精巧な模型を発見する。ひと目で惹かれたタンタンはすぐさま購入するが、どういうわけかあとからやって来た人々が、意地でもそれを彼から買い取ろうとした。最初の男は、模型を持っていることが災いを呼び寄せる、と警告し、次の身なりのいい男は、言い値で買い取ろうとさえした。

 一連の出来事に、却って関心を抱いたタンタンは、図書館で改めてユニコーン号についての歴史を調べた。海賊に襲われ沈没したと言われるユニコーン号には、歴史を変えるほどの莫大な財宝が積まれていた、という伝説がある。最後の船長であり、襲撃から唯一生き残ったフランソワ・アドックは、自らの血を引く者だけが真実に辿り着ける、と謎めいた言葉を残していた。

 調査を終えて帰宅すると、タンタンの部屋は何者かによって荒らされ、模型は奪われていた。だが、相棒である犬のスノーウィは、出かける前のバタバタで壊れていた模型から落ちたものが、チェストの下に潜りこんでいることをタンタンに教える。それは、謎めいた詩句を記した、古びた羊皮紙であった。

 どうやら、アドック船長は何らかの形で、ユニコーン号の秘密にまつわる手懸かりを残しているらしい。そう察したタンタンはスノーウィと共に、かつてアドック船長が暮らしていた屋敷に潜入した。その一室には、彼が手に入れたものと瓜二つの模型が飾られていた。しかし破損した痕跡はなく、タンタンが入手していたものとは異なっている。しかも、アドック船長の屋敷は、彼から模型を言い値で買い取ろうとした身なりのいい男――サッカリン(ダニエル・クレイグ)が所有していた。

 これはいよいよ、何かある――そうタンタンが直感してすぐに、事態は大きく動き出す。敵はタンタンを拉致し、ある貨物船に閉じ込めたのだ。スノーウィの機転と自らの知恵を駆使して船室から抜け出したタンタンは、サッカリンの煽動により指揮権を奪われたその船の船長がハドック(アンディ・サーキス)であることを知り、驚愕した――つまりこの船は、かのユニコーン号最後の船長の子孫が走らせていたのだ。

[感想]

 原作は1929年にベルギーで誕生して以来、世界各国で翻訳され、愛され続けている漫画シリーズである――とは言い条、私は名前以外にほとんど知識はなく、今回は鑑賞前に原作を読むこともしなかったので、ほぼ真っさらな状態で鑑賞したに等しい。

 もとが古い作品であるだけに、オーソドックスな冒険物になっているのは当然という気もするが、しかしそこは名作『インディ・ジョーンズ』を手懸け、『E.T.』や『バック・トゥ・ザ・フューチャー』、最近でも『SUPER8/スーパーエイト』など、子供心を沸き立たせる優れたジュヴナイルを監督、プロデュースしているスティーヴン・スピルバーグが自ら監督しているだけあって、王道の王道を貫きながらまったく緩みのない、見事な仕上がりとなっている。

 最初から様々な冒険を経験してきたヒーローとして描かれる主人公タンタンに犬の相棒、秘密の財宝にそれを狙う悪漢、とまさに王道としか言いようのない要素で組み立てており、下手をすると退屈になりそうなものだが、構成の巧みさとツボを押さえた描写で、ほぼ途切れることなく観客の関心を惹き続ける。

 定番だからこそ観ていて興奮せずにいられないシチュエーションの選択も絶妙だが、本篇はそこに加え、キャラクターの表情、やり取りも巧みだ。正義感に溢れ何事にも果敢、というごく正統的なヒーローであるタンタンを中心に、物語のキーマンだが酔っ払いで肝心なことはぜんぶ忘れている困った人なハドック船長、間抜けだが息の合った振る舞いに愛嬌のある刑事コンビ、考えようによってはタンタン以上に有能な相棒の犬スノーウィ。それぞれが冒険のなかで繰り広げる細かなやり取りのユーモアが、いずれもきちんとエッセンスとして活きている。まさに悪漢を絵に描いたが如きサッカリンも、それ故に冒険の興奮をシンプルに掻き立てつつ、随所で笑いを誘っているのもジュヴナイルとしての正道を行く作りだ。

 だが、本篇の真価は、そうして冒険物語としてど真ん中を貫くストーリーを固めた上で、フルデジタル3Dというシステムだからこそ可能な映像表現を、現在可能な極限まで突き詰めていることにこそある。

 実写で映画を作る場合、大きな制約となるのはカメラの存在である。近年はだいぶ軽量化が進んだとは言い条、それでも一定のサイズを必要とするため、スムーズな動きや特異なアングルを実現するために、レールを敷いたりクレーンで持ちあげたり、といった仕掛けが必要になる。そうしたセッティングが不可能なら、どれほど独創的なアングルを考えたとしても、実際に撮影することは出来ない。また、カメラが存在する以上、鏡やガラス、出演者の瞳などに映りこむことは避けられず、そのために繊細な配慮が必要となる。観るだけの者はあまり意識しないかも知れないが、現実に存在しないモノを撮る、という以外にも、実写は多くの束縛がある。

 だが、カメラ位置を考慮する必要はあっても、そのセッティングを心配する必要がない3DCGでは、こうした制約がほぼ取り払われる。本篇はその利点を極限まで活用し、まさに現実ではあり得ない超絶的なカメラワークを随所で展開しているのだ。

 まず序盤で度胆を抜かれるのは、タンタンが攫われたあと、スノーウィがそれを追いかけるくだりだ。箱に詰められ運び出されるタンタンを見て、スノーウィが自宅の2階に駆け上がり、通りかかったはしご車の屋根に飛び乗る。それから誘拐犯たちの車の屋根に飛び移り、振り落とされたあとで、牛舎の向こう側に敵の車が走っているのを見つけると、牛の脚のあいだを走り抜けていく――そもそも実写ではこんなに製作者の意図通りに行動してくれる犬がいない、ということを脇に置いても、驚くべき映像が陸続と繰り出される。スリルもさることながら、牛の脚のあいだを駆けるシーンではユーモラスな描写も交えて愉しませてくれるのが憎い。

 特に凄まじいのは後半、砂漠の町でのひと幕である。宮殿から逃げていくサッカリンを、タンタンたちが追うのだが、私の記憶する限り、10分はノーカットで描いている。自動車とバイクとの追いかけっこ、というだけでも普通のカメラで追うことなど不可能だが、他にも無数のアクロバティックな趣向が凝らされており、まさに未体験の映像と言っていい。しかもこれを、上映においても3D方式を採用しているのだから、対応する映画館で鑑賞したときの迫力は、もはや筆舌に尽くしがたい。私は冒険映画は一種のアトラクションとして愉しむべきだ、と常々主張しているが、その意味でまさに理想的な出来映えなのだ。

 他方で、あちこちに茶目っ気を示しているのもいい。そもそも冒頭、似顔絵描きが描いたタンタンがオリジナルの絵柄そのものである、という場面もそうだが、セスナで着水した敵のもとに海のなかからゆっくりと忍び寄るタンタンの姿が明らかにスピルバーグの某作品を彷彿とする描き方をしているあたりにはニヤリとせずにいられない。きっと探せばまだまだ細かな悪戯を仕掛けてあるはずだ。

 オーソドックスな趣向の積み重ねで始まった物語は、ある意味これといったひねりもなく収束する、が、それはいい意味での期待通りだ。冒険物語ならかくあるべき、というところに落ち着く、その清々しさもまた、本来上質のジュヴナイルが備える持ち味なのである。

 冒険ものとして王道を辿りながら、しかし御都合主義に偏りすぎず、不自然な運びがほとんど見られないのも、本篇の優秀なところだ。秘密の隠し方、その暴き方が、誰しもすぐには思いつかず、しかし納得のいくアイディアが用いられている。子供の胸をときめかせ興奮させる作りをまず志しながら、子供騙しにはなっていない。それもまた、『E.T.』や『SUPER8/スーパーエイト』など、大人の鑑賞に耐えうる傑作をものにしてきたスピルバーグだからこその、堂々たる仕事ぶりと言えよう。

 冒険映画としても、3D上映に対応した映画としても、ここ最近で最も優れた作品、と断じる。もとが非常に古い、子供向けの作品だから、と侮っているなら、きっと損をする。色々な意味で、これほど興奮させてくれる映画は、そうそう出て来ない。

関連作品:

E.T. 20周年アニバーサリー特別版

バック・トゥ・ザ・フューチャー

SUPER8/スーパーエイト

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コメント

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