北野誠の怪談ライブツアー おまえら行くな。2012 at 松竹芸能新宿角座。

 明けて本日も怪談イベントであります。先にこれのチケットを押さえてしまったのですが、どうも楽にイベントに参加するためには、映画を観に行かないほうが無難だ、と感じたので、本日も観たい作品が幾つか封切られるものの、泣く泣く後日送りに。

 予め食事を済ませてから新宿入りし、角座へ。チケット購入時点では、「新宿にあるなら、まあそんなに迷わないだろう」程度の心積もりでいたのですが、いざ訪れてみたら、紀伊國屋書店新宿本店の裏からすぐのところでした……気がつかなかった。そんなに大きなビルではないせいもあるのでしょう、舞台は狭め、客席はけっこう急な傾斜に並べてあるような格好ですが、演者との距離感が非常に近く、手の届く範囲で行われている、という雰囲気がいい。

 20時より、イベント開始。まずは主役である北野誠氏が浴衣姿で登場、挨拶のあとで、イベントのレギュラーである西浦和也氏もやはり浴衣姿にて登壇。更にゲストとして、最近怪談を売りにし始めた若手芸人ふたりも登場、第1部はこの4人の語りで進行。

 ……が、率直に言えば、若手ふたりはかなり修行不足。最初に話したかたは状況がいまひとつ伝わりづらいですし、ふたりめに至っては、都市伝説と言ってもいいくらい人口に膾炙したパターンの変化に過ぎない話を安易に語ってしまっている。怪談を語りはじめたことで寄せられたメールのひとつで、恋愛相談の形で持ちかけられた、という外枠のお陰でギリギリ責任を回避している格好ですが、この話をひとの怪談イベントにかける段階で、はっきり言って怪談を芸にする資格はないと思います。本当に怪談好きなら、もうちょっと考えなさい。もしかしたら作家が話を仕込んでいるのかも知れませんが、それならその作家は使えません。まったくもう。

 そのあとで西浦和也氏がちょっと長めの話を披露。こちらは先日刊行された氏の最新刊に収録されているもので、予習として読んでしまった私には新味はない……とは言い条、やっぱり生で聴くとそれはそれで愉しい。西浦和也氏は『新耳袋』の木原浩勝氏にもともと師事していたかたですから、笑いも挟む辺りに影響が感じられるのも個人的には興味深かった。

 第1部のラストには、北野氏秘蔵の、数年前にCS系番組で行われた“ひとりかくれんぼ”の様子と、そのカメラが映した怪異の映像を紹介。実際に儀式を試みた女性がどうなったのか知らない、という北野氏の発言がいやーんな感じでしたが、映像としてもなかなか。複数のアングルで同時に撮影し、一方では奇妙なものが映っているのに、別角度では特に訝しいところがない、というのが特にいい。さすがにいい映像をお持ちです。

 休憩を挟んでの第2部は、ゲストの芸人おふたりは退いて、『おまえら行くな。』映像版の監督を務めている鎌倉泰川氏を加え、実際の映像、写真を用いて、最新作取材時のエピソードのお披露目。こちらも書籍版にて言及していることが中心でしたが、カラーの写真と、当事者の生の言葉が聞ける分、やっぱり臨場感がある。

 個人的にインパクトが強かったのはふたつめ、台湾にあるという“幽霊屋敷”のエピソード。1本目の取材に同行した女性タレントが今度は拒絶したため、馴染みのある別のタレントのかたが同行したのですが、この方に異変が起きてしまった、その様子を動画で見せていただきました。演技にしてはあまりに切羽詰まった反応がイヤでも不気味さを感じさせる。ついでに、事後にある事実を知らされて「早く言えよ」と思った、という流れがリアルです。

 ふたたびゲストのふたりを招いたのちに、締め括りとして、北野氏がイタコに口寄せをお願いした際の様子を上映。……笑いの渦に包まれました。いや、確かにあれはプロだと思います。こう言っては何ですが、本篇を凌駕しかねないインパクトでした。

 しかし本日のイベントの白眉は最後に待っていた。第1部と第2部とのあいだに設けられた休憩の際、北野氏が楽屋に戻ると、何故かドアのところに落ちていた、というものを取り出した瞬間、会場がざわめきました。

 黒のネクタイ。

 登壇者はいずれも芸能人か自由業なので、こんなところにネクタイ、まして黒を持ってくるいわれがない。会場に居合わせている関係者に北野氏が訊ねても、誰ひとり心当たりがない。いったいこのネクタイはどこから現れたのか? このあと、黒ネクタイが必要になる出来事がある、という暗示なのか、と考え出すと、薄ら寒いものがある。

 イベントの最後は一本締めで終わったのですが、途端に北野氏が会場に向かってネクタイを放り投げて悲鳴が上がる、というひと幕も。正直、私ゃあのネクタイは北野氏の仕込みじゃないか、という疑いも抱いてますが、仮にそうだとしても見事なので許す。

 終演後は、ちゃんと持ち寄ってあった著書にサインを戴いてから離脱。ゲストの若手芸人にはちょっと苦々しい印象を受けましたが、トータルでは愉しいイベントでした……愉しい、と言ってしまうのは私がひねくれ者だからです。たぶん普通のかたには、笑いつつも充分に怖いと思う。

コメント

タイトルとURLをコピーしました