城昌幸『みすてりい』

城昌幸『みすてりい』(Amazon.co.jp商品ページにリンク) 『みすてりい』
城昌幸
判型:文庫判
レーベル:創元推理文庫
版元:東京創元社
発行:2024年10月18日
isbn:9784488499129
価格:1100円
商品ページ:[amazon楽天BOOK☆WALKER(電子書籍)]
2025年2月6日読了

 西條八十らに師事した詩人・城左門として活躍し、戦後は《若さま侍捕物手帖》で広く人気を博した著者が、戦前・戦後にかけて発表した幻想怪奇短篇より厳選しまとめた自撰集に、関連する作品などを加えて復刻。
 戦前戦後の作品に多少なりとも接したひとなら、何かの機会に触れる機会はあるが、こうして単行本のかたちで接する機会はさすがになく、刊行の情報に接して急ぎ確保してきた1冊である。同じ著者による《若さま侍捕物手帖》シリーズは映画化もされるほど人気を博したシリーズだがそれも昔、こちらも好事家向けに選集がときどき刊行されるのが関の山、という状況では、尚更本書、および同時刊行された『のすたるじあ』は貴重な出版である。こういうものをきちんと発売してくれる東京創元社は本当に有り難い。
 しかしまとまってみると、現代においてはお世辞にも読みやすい作品とは言い難い。ひたすら持って回った表現、一文が果てなく続き内容の軸を見失いがちな文体は、とっつきにくさがある。ある程度解って手を着けた私でも、最初は戸惑ったほどだ。
 だが慣れてくると、現代にはあまり接することの出来ない独特の格調と、流麗たる文章に次第に魅せられていく。古色を纏った文体が紡ぎ出す奇怪な光景が、その幻想性をいや増して感じられる。都会に突如として出現する奇怪な建築、冷え冷えとした駅舎で異国の人物が不意に見せるあり得ない行動など、その気になれば数行で済むような内容が、重厚さを帯びてくる。
 著者が本書に収録された短篇、掌篇を執筆していた時期は、合理的な解決を見ない、いわゆる幻想小説、怪奇小説の類も“探偵小説”の枠組のなかで語られることが多かった。始祖と言われるエドガー・アラン・ポーが、そうした作品を著していたことにも起因するのかも知れないが、本書の著者もまた幻想怪奇の作品が多い。しかしその一方、思考は極めて合理的で、常に理知の光が覗くあたりに、往年の“探偵小説”というものの香気を感じることができる。現代の作家ではなかなか
 それぞれに滋味深い作品が多数だが、人間の感情の機微を短いなかに詰め込んだ《古い長持》、伏線のちりばめられた本格ミステリとしても読めるが、そのことが幻想性、叙情味を強める不思議な味わいの《波の音》あたりが強い印象を残した。
 一方で、やはり古い作品なのだ、と感じる部分も少なくない。偏見や誤解に基づく記述もそうだが、特に《不可知論》の《一 ものの影》は、現代の目線で読むと、あまりにも基本的な部分が抜けていて少々滑稽に感じられてしまう。ただ、それでも考察の独自性と緻密さはモ、この当時ならではの見識として興味深く、作品としての価値はある。
 作品の大半が短篇であり、評価されていたのもこうした短い作品群であったために、なかなかまとまって読む機会が得られない状態だっただけに、著者の意向も反映した自撰集が、比較的長く市場に流通させてくれる東京創元社から復刻されたのは喜ばしい。江戸川乱歩や横溝正史が最も濃厚な幻想怪奇の作品を著していた時代の空気を最も濃縮したような作品群に、新しい読者が接する機会となってくれることを願う――まあ、その場合、現代と異なる文章の癖がハードルになることも確実だと思うけれど。


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