定住を目指すひと、漂泊するひと。

 ……チケット押さえてから思いだしたんですよね、今年のアカデミー賞の授賞式は4月26日だ、って。しかし何故か、4月3日だとどこかで思いこんでいて、「発表までに、公開されてる候補作押さえとかないと!」という強迫観念に駆られてスケジュールを組み、巧くハシゴが出来るのに気づいてしまったがために、勢いで立て続けにチケットを確保してしまった。直後に正しい発表日を思い出して後悔しましたが、先に立たず。せめて無駄にするまい。

 午前中に諸々の用事を済ませ、昼食のあと短い仮眠を摂――るはずが、なぜか寝付けず、諦めて起き出した。諸々のチェックを済ませたあと、バイクにて新宿へ。当初の予報よりも天候が悪そうなんですが、強行。せめて屋根のあるところに駐めようと、TOHOシネマズ新宿地下の駐車場をまず当たってみると、折良く空きがあった。これで、バイクが濡れるとしても帰り道だけで済みます。
 まず鑑賞した1本目は、韓国人移民の家庭に育ったリー・アイザック・チョン監督が半自伝的に紡いだ、ある移民一家のすれ違いと苦悩を描いたミナリ』(GAGA配給)
 昨年のアカデミー賞を制した、ある意味でまとまってるふたつの家族を巡る『パラサイト 半地下の家族』と対照的に、こちらはとことん足並みが揃わず、万事がうまく運ばない。けれどそこに、地に足の着いた説得力があって、不思議な逞しさを感じさせる。それが勢いよく昇華される結末が印象深い。
 また、基本的に舞台が変わらないのに、不思議と映像が美しい。登場人物の表情、態度を繊細に追うカメラワークも巧みで、なるほど賞レースを席巻するのも頷けるクオリティでした。
 あいだは10分、ルールなのでいちおういったんゲートを出て入り直し鑑賞した2本目は、家を失い現代の《遊牧民》=《ノマド》として生きる道を選んだ女性を、本物の《ノマド》たちの群像と共に描き出すノマドランド』(Walt Disney Japan配給)
 観ながら何故か『この茫漠たる荒野で』を思い出してました。時代も人物配置も違うのにテーマや映像の組み立てが似ている。それでいて着地点が絶妙に異なっている。
 先に観た『ミナリ』とはまた違う、異様なまでに実感の豊かな描写がやたらと堪えます。排泄の様子や、病に苦しむ姿まで捉え、あまりにも過酷なノマドたちの暮らしぶりを浮き彫りにしていく。こういう生活を営むのは高齢者が中心、というのにも驚かされますが、本篇を観ていると腑に落ちることもたくさんある。他に選ぶ道がなかったひともいる一方で、自ら旅の空を選ぶひともいる。
 終幕に至ってもまったく先が見えないことに、観ているほうが不安を抱いてしまうほどですが、しかし劇中に登場する本当のノマドたちの言葉や、主人公であるファーンの心情を思うと、これもまた人生のひとつの真相なのだ、と感じる。アメリカの過酷で、けれど雄大な光景の美しさにもその生き方の危うい魅力をたたえた、奥行きのある1本。

 どっちのほうがオスカーに近いか、と問われたら……正直、解りません。どちらも確かに候補には相応しい、けれど、どちらを評価するかは、ほんとに観る側のスタンスや心情次第で、どっちにも傾きそうな気はする。
 あくまで個人的な好みで言わせてもらえば『ノマドランド』のほうに軍配を上げます、が、『ミナリ』が無双になっても不思議はないと思う。

 せっかく新宿まで出て来たのだから、夕食も近くのラーメン店で摂っていこうか、と出かける前に思ったのですが、冷静に考えると、まだ飲食店などには時短営業の要請が出ている。ゆっくり食べている時間はなさそうなので、大人しく家に帰ることにしました。

コメント

  1. […] 原題:“Minari” / 監督&脚本:リー・アイザック・チョン / 製作:デデ・ガードナー、ジェレミー・クライナー、クリスティーナ・オー /  […]

  2. […] 原題:“Nomadland” / 原作:ジェシカ・ブルーダー『ノマド 漂流する高齢労働者たち』(春秋社・刊) / 監督、脚色&編集:クロエ・ジャオ /  […]

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