『ジョジョ・ラビット』

TOHOシネマズ西新井の入っているアリオ西新井駐輪場脇の壁に掲示されたポスター。

原題:“Jojo Rabbit” / 原作:クリスティン・ルーネンズ / 監督&脚本:タイカ・ワイティティ / 製作:カーシュー・ニール、チェルシー・ウィンスタンリー / 撮影監督:ミハイ・マライメア・Jr. / プロダクション・デザイナー:ラ・ヴィンセント / 編集:トム・イーグルス / 衣装:マイエス・C・ルベオ / メイクアップ&ヘア:ダニエル・サザーリー / ヴィジュアル・エフェクト:ジェイソン・チェン / 音楽:マイケル・ジアッチーノ / 出演:ローマン・グリフィン・デイヴィス、タイカ・ワイティティ、トーマシン・マッケンジーレベル・ウィルソン、スティーブン・マーチャント、アルフィー・アレンサム・ロックウェルスカーレット・ヨハンソン / 提供:フォックス・サーチライト・ピクチャーズ / 配給:Walt Disney Japan

2019年日本作品 / 上映時間:1時間48分 / 日本語字幕:牧野琴子

2020年1月17日日本公開

公式サイト : http://foxmovies-jp.com/jojorabbit/

TOHOシネマズ西新井にて初見(2020/01/21)



[粗筋]

 ジョジョ(ローマン・グリフィン・デイヴィス)にとって、それは待望の日だった。ヒトラーを救世主と信じ、ナチスに強い憧れを抱く10歳のジョジョは、青少年を集めたヒトラー・ユーゲントの合宿に参加するのである。常に彼の傍にいる“空想上の友達”のヒトラー(タイカ・ワイティティ)にも励まされ、ジョジョは親友ヨーキー(アーチー・イェーツ)と共に意気揚々と出かける。

 合宿でジョジョたち少年少女の教育に当たるのはクレツェンドルフ大尉(サム・ロックウェル)、通称“キャプテンK”。ドイツの敗色が濃厚であることを躊躇いもなく口にするような変わり者だが、ナチスに憧れる少年たちの心を巧みに掴んで鼓舞した。

 自分に自信満々だったジョジョだが、しかしその鼻っ柱は合宿2日眼にしてへし折られてしまう。年長の少年たちに「ウサギを殺してみせろ」と命令されたのに、怖れて逃がしたジョジョは、賞賛されるどころか臆病者――“ジョジョ・ラビット”と渾名されてしまう。

 すっかり落ち込んだジョジョだが、空想のヒトラーに「ウサギは勇敢で狡賢い」と励まされて一念発起、手榴弾の訓練中に飛び込んで、クレツェンドルフ大尉の手から手榴弾を奪って放ろうとする。しかし、手榴弾ジョジョの足許で爆発、気づけば彼は病院に担ぎ込まれていた。

 脚を痛め、顔に傷跡を残して、すっかり意気消沈したジョジョのために、母親のロージー(スカーレット・ヨハンソン)はユーゲントの事務局に抗議、勇敢な息子のために任務を与えて欲しい、と懇願する。ジョジョの事故が原因で事務職に降格されていたクレツェンドルフ大尉はロージーの頼みを受け入れ、ビラ貼りなど無理のない範囲での奉仕活動をジョジョに提供する。

 初めての任務を終えたその日、まだ母の戻っていない家に帰ったジョジョは、どこかから奇妙な物音を聴いた。亡くなった姉インゲの部屋の壁に隠し扉があることに気づき、開けてみるとそこには、ユダヤ人の少女(トーマシン・マッケンジー)が潜んでいた――

[感想]

 ナチスドイツ、及びその支配下にあった時代のドイツや占領された国々を描いた物語は、どうしても陰鬱になりがちだ。特定の民族を国家として迫害、人類史上類を見ない方法での大虐殺を行ったがゆえに、その事実を採り上げれば否応なしに暗澹とした内容になってしまうし、ただ舞台として選んでもその影響は免れない。

 ――という思い込みを、本篇はいっそ爽快なほどの鮮やかさで薙ぎ払ってしまう。

 考えてみれば当然のことだが、後世の目で見てどれほど陰鬱な制度、社会でも、それを歓迎していたひとびとがいるから成立する。そして、他の価値観を知らず、その強烈な影響下で育つ子供たちにしてみれば、まず疑うことをしないのも道理だ。結果、のちの子供たちがテレビや漫画のヒーローに憧れるような感覚でナチスヒトラー・ユーゲントを見るのも不思議ではない。そういう子供の視点から描くことで、従来の作品にはないポップな明るさを採りこみ、作品に入りやすくしている。

 キャラクターの設定、配置の絶妙さもこの間口の広さに貢献している。ジョジョを巧みな嘘と現実で翻弄して現状を乗り切る強かさを見せるヒロインに、言っていることがコロコロ変わるがジョジョへの友情だけは決して歪めないヨーキー、ナチスへの妄信をその丸っこい体格で絶妙に戯画化してしまうミス・ラーム(レベル・ウィルソン)や、終盤でジョジョたちを追い込む秘密警察のディエルツ大尉(スティーブン・マーチャント)でさえも不思議な愛嬌を醸し出して描いている。

 だが中でも素晴らしいのはジョジョの母ロージーと、異端の将校クレツェンドルフだろう。

 合宿から失意の状態で帰った我が子のために、当時はそうとう恐れられていたはずのナチスの事務所に乗り込んで対応を求めるさまも、この時代を描いた作品では異色だが、他の点でもこの母親が見せる逞しさは群を抜いている。随所でそのパワフルさを窺わせながらも、我が子に対して繊細に振る舞い、、作品に優しさ、柔らかさも添えている。これを書いている現時点で第92回アカデミー賞助演女優賞候補にロージーを演じたスカーレット・ヨハンソンが挙がるのも納得の存在感だ。

 しかし、こちらはアカデミー賞にノミネートされていないものの、サム・ロックウェル演じるクレツェンドルフ大尉がまたいい。ナチスでありながら序盤でいきなりドイツの敗戦を匂わせるあたりが既に型破りだが、やることなすこと妙に憎めない。ジョジョのせいで降格されたにも拘らず、それでも貢献したい、という懇願に(ロージーに従わされたような体裁を繕いつつ)きちんと応えているし、その後の行動にもジョジョとロージーを気遣う様子が見える。そして、そういう人柄であるからこそ、去り際のひと芝居にも説得力が生まれる。クセ者サム・ロックウェルらしいひねりの効いた、それでいて味わいのある人物像は、従来のナチス将校像を徹底して覆す。

 かつてのナチスドイツを支えていたひとびとがすべてナチスヒトラーを盲信していたわけではないし、信奉者にも色んな姿や立場がある、という当然のことを、本篇は絶ユーモアと絶妙に配合して表現している。ナチスの行ったことの非人道的な側面に目をつむるわけでもなく、この匙加減を実現した手腕に恐れ入るほかない。

 また本篇の場合、本物のヒトラーではなく、ジョジョの“空想上の友達”であるヒトラーを登場させる、というアイディアが出色だ。物語が進み、ジョジョのなかでのユダヤ人に対する理解やナチスに対する意識が揺れ動くのに合わせて、最初は凜々しくも奇妙な愛嬌のあったヒトラー像が変化していく。ジョジョという純真な少年の心の動きを象徴するものとして実に有効に働いている。特にクライマックス、このキャラクターが存在するからこそ、捉えようによっては救いの少ないあの展開にもそれまでと一貫した明るさを保っているのだ。

 本篇は決して、ナチスを巡る歴史に何らかのかたちで影響を与えうる物語ではない。けっきょくジョジョもまた、その大きなうねりに巻き込まれ、多くのものを失っている。ただ、たとえ世界を変えることは出来なくとも、自分の手の届く範囲の世界になら影響を及ぼすことが出来る。終盤でのジョジョの行動はそれをシンプルに体現しているからこそ清々しい。

 歴史から目を背けることなく、しっかりとメッセージ性を織り込みながらも、徹頭徹尾ユーモアを交え娯楽性も極めて高い。革新的な1篇であると同時に、そう簡単に真似することの出来ない境地に達した傑作である。

関連作品:

アイアンマン2』/『月に囚われた男』/『LUCY/ルーシー

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コメント

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