『WEAPONS/ウェポンズ』

TOHOシネマズシャンテ、チケットカウンター向かいの壁面に掲示された『WEAPON/ウェポンズ』ポスター。
TOHOシネマズシャンテ、チケットカウンター向かいの壁面に掲示された『WEAPON/ウェポンズ』ポスター。

原題:“Weapons” / 監督&脚本:ザック・クレッガー / 製作:ザック・クレッガー、ロイ・リー、マリ・ユーン、J・D・リフシッツ、ラファエル・マーグレス / 製作総指揮:ミシェル・モリッシー、ジョシュ・ブローリン、ピート・チアペッタ、アンソニー・ティッタネグロ、アンドリュー・ラリー / 撮影監督:ラーキン・サイプル / プロダクション・デザイナー:トム・ハモック / 編集:ジョー・マーフィ / 衣装:トリッシュ・サマーヴィル / キャスティング:アリソン・ジョーンズ / 音楽:ライアン・ホラディ、ヘイズ・ホラディ、ザック・クレッガー / 出演:ジュリア・ガーナー、ジョシュ・ブローリン、オールデン・エアエンライク、オースティン・エイブラムズ、ケイリー・クリストファー、トビー・ハス、ウィットマー・トーマス、キャリー・シュテラ、ベネディクト・ウォン、エイミー・マディガン / サブコンシャス/ヴァーティゴ・エンタテインメント/ボールダーライト・ピクチャーズ製作 / 配給:Warner Bros.
2025年アメリカ作品 / 上映時間:2時間8分 / 日本語字幕:岸田恵子 / R15+
2025年11月28日日本公開
2026年3月18日映像ソフト日本最新盤発売 [ブルーレイ&DVD セット]
公式サイト : https://www.warnerbros.co.jp/home_entertainment/brso8jbx4tqx/
TOHOシネマズシャンテにて初見(2025/12/12)


[粗筋]
 小学校の教師ジャスティン(ジュリア・ガーナー)が担任を務める教室に赴くと、生徒はアレックス(ケイリー・クリストファー)しかいなかった。
 各家庭や近所の監視カメラを検証した結果、他の17名の生徒はみな深夜、家から出て行ったことが判明する。しかも、判を捺したように、全員が2時17分に家を出ていた。この不可解な失踪事件に、小さな町は騒然となる。
 疑いの目を向けられたのはジャスティンだった。真面目だが飲酒癖があり、飲酒運転の前科もある彼女を、警察も怪しみ行動を調査したものの、証拠は一切見つからなかったが、町の人々は悪意のある噂を流布し、ジャスティンは落書きなどの嫌がらせを受ける。
 失踪から一ヶ月が過ぎても、子供達は一向に見つからず、ジャスティンはアルコール中毒に近い状態になった。校長のマーカス(ベネディクト・ウォン)はジャスティンに高まる非難の声と、彼女への気遣いから、しばらく休職するよう言い渡す。不本意だが、従うほかなかった。
 失踪した生徒の家族の中でも、アーチャー(ジョシュ・ブローリン)は特にジャスティンに対して強い疑念を抱いていた。警察の捜査や、学校側の対処を生ぬるいと感じ、自身でジャスティンを警戒しつつ、独自に子供達の行方を探り始める。
 アーチャーが注目したのは、子供達が走り去った方角だった。他の生徒の家族に頼み込み、確認した監視カメラ映像から、子供達が向かう方角を調べると、どうやら町内のごく狭い範囲を目指していたらしい、と気づく。
 そんな矢先、アーチャーはガソリンスタンドで給油していたジャスティンを見付けると、衝動的に追求を始める。言い争いになったとき、まったく予想しないことが起きた――


[感想]
 少女の声で“2年前の出来事”として語る本篇の導入は、どこか民話のような佇まいさえある。ただ、その言葉と共に展開する映像は現代そのもので、奇妙な違和感をもたらす表現だ。
 しかし、恐らくはこの“違和感”から既に監督の企みの一部だろう。この不穏な気配を孕んだまま、画面は不意に暗転し、“Justin”という章題が表示されると、そこからはほぼナレーションなしで展開していく。しかしそこには、序盤で少女の声が語った内容が、不気味な通底音として響き続けるのだ。この町で、一体何が起きたのか? という疑問の形で。
“Justin”という章題が提示され、このくだりの中心人物である、失踪した子供たちのクラスを受け持っていた教師ジャスティン・ギャンディの視点に映ると、途端にトーンは変わる。冷静に考えればあり得ないのに、怒りに駆られた住民たちの疑惑の目が向けられたジャスティンの受難が描かれる。
 この、住民のジャスティンに対する批難、中傷のさまは、現実社会でも十分に起こりうる“恐怖”だ。説明の困難な事態が発生したとき、人はその核心に近い、と捉えた人物を疑い、責め立てる。まさしく“魔女狩り”の構図に陥れられた人物の恐怖と、破綻していく精神状態を、本篇はかなり的確に抽出している。
 のちの章で中心として採り上げられるアーチャーにしても、描写としてはかなり過激な人物になっているが、突如として子供が行方をくらまし、何の手懸かりもない状況にある親としてはあり得るものだ。子供を取り戻すため、真相を渇望するのは自然なことだ。その追いつめられた心情にもまた“恐怖”は滲み出す。
 本篇の巧いのは、こうした中心的な登場人物を、決して理想的な人物とせず、現代ならではの問題を孕む人物として組み立てている点だ。
 ジャスティンは理想的な教師たらんと努力していた痕跡はあるが、一方で飲酒癖や、親しい人間に対して執着する傾向があることを、かつてのボーイフレンド・ポール(オールデン・エアエンライク)との描写などで浮き彫りにしている。そのポールにしても、かつての恋人と同様の飲酒癖と共に、不安定な側面を持つ。アーチャーにしても、もともと失踪した我が子との関係に不安を抱えていればこそ暴走していることが否めない。主要登場人物の中では人格者に映るマーカス校長も、彼の指摘したジャスティンの教師としての問題点は、現代の教職の難しさが織り込まれている。
 しかし、本篇が素晴らしいのは、そうした現代的なモチーフが、正統派のホラーのモチーフと融合することで、多くの観客にとって初めて目撃するような恐怖と興奮を齎す作品へと昇華したことだ。
 序盤の、巧みな間を用いたヒリヒリとした恐怖は、ジャスティンが現実によって味わわされる恐怖とも結びついている。しかし、随所で立ち現れる不気味な予兆と奇妙な出来事が醸し出すおぞましさは、決して現実で説明がつくものとは思えない。
 そして、章ごとに視点を変えることで、先に見せられた部分だけなら異様に感じた部分に繋がりつつも、新たな謎と不気味さが増幅し、やがて衝撃的なクライマックスに結実する。
 丁寧に張り巡らされた伏線と、カメラが追ってきた登場人物が合流し織りなすクライマックスは、ホラーとしても成立している一方、突き抜けた狂騒状態は、いっそ滑稽でさえある。ただ、それで観ている方が白けることもなく、呑み込まれるような熱狂は、間違いなく独自の映像体験であり、接する価値がある。
 しかも、この衝撃的な展開の下地には、ある種の社会問題を象徴で描きだしたような側面もあって、不思議ともの悲しい情感すら湛えている。この情感はクライマックスの熱量にも寄与するが、ホラーの枠からはみ出すようなこの作品ならではの余韻をも醸成している。
 ホラー映画というジャンルにとって2025年は、『罪人たち』という話題作がリリースされたが、そのあとに作本篇も存在した、という点で強く記憶されるべきだろう。アカデミー賞で作品賞までも競うレベルだったあちらに対して、本篇はたった1部門のノミネートだが、そのたった1部門、最優秀助演女優賞を、本篇のエイミー・マディガンが獲得した、というのはかなりインパクトのある事実だ。ミステリーやサイコスリラーのような作品で俳優が賞に輝くことはしばしばあったが、本篇のような方向性で受賞するのはかなりインパクトの強い出来事だ。
 ホラーというジャンル映画を愛好する人なら、好き嫌いはともかく、一見の価値がある作品であるし、ジャンルそのものに関心がない人でも、強烈に魅せられる可能性を秘めた傑作であると思う――ただ、終盤に少々グロテスクな描写があるので、そういうものに抵抗のある方はご注意ください、とだけ申し上げておく。

 本篇で興行的にも批評的にも成功を収めたザック・クレッガー監督は、世界的に人気を博したゲームである『バイオハザード』の2度目のリブートに起用された。これを書いている現時点ではまだ劇場公開はされていないが、既に発表されている予告篇は、作品世界の拡大解釈とエンタテインメント性で惹きつけたポール・W・S・アンダーソン監督版から一転、本篇と通じる間とカメラワークで構築するホラーの雰囲気に満ち満ちている。個人的にかなり期待しているところである。
 そして本篇も好評を受けて、スピンオフ作品が監督自らの手で準備が進められているらしい。現在、公表されているタイトルは『Gladys』――本篇を観た人なら、ワクワクするはずだ。
 当初はコメディ畑の作品が多かったらしい監督だが、本篇の高評価を受けて、しばらくはホラーに集中的に取り組んでいるような印象である。期待したい。


関連作品:
シン・シティ 復讐の女神』/『DUNE/デューン 砂の惑星(2021)』/『イノセント・ガーデン』/『Mank/マンク』/『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』/『ゴーン・ベイビー・ゴーン
シャイニング 北米公開版〈デジタル・リマスター版〉』/『モールス』/『トールマン』/『サスペリア(2018)』/『NOPE/ノープ』/『マリグナント 狂暴な悪夢

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