怪し会 八雲 於もっとい不動密蔵院

密蔵院の門前にに設置された案内板。 2010の参から参加しはじめ、2011201220132014と毎年参加を続けている怪し会。発売時にちょっとゴタゴタがあり、当初狙っていた回が押さえられなかったりしましたが、何とか今年も参加することが出来ました。代わりに確保をお願いした某氏に心より感謝致します。

 このあと感想を記しますが、ブログのトップでは表示しない設定にしておきます。土曜日、日曜日に参加予定でネタばらしは避けたい、という方は、ご覧にならぬよう。また実は今回、アニメイト限定ですがDVDのリリースが決定した模様なので、そちらを新鮮な気持ちで楽しみたい方も飛ばしてください。

 第8回、という数字にちなみ、今回は木原浩勝氏の原作のみならず、小泉八雲の作品から2作を脚色して上演しています。冒頭はまず、その八雲の話から。

 舞台が伯耆国、というあたりから時代がかってますが、まさに古典的な日本の怪談。それを、計算された音響と生の芝居で見せる、というより聴かせるので迫力は半端ではない。しかも、今回は特別に琵琶奏者も招いて、この1本目では琵琶の音色を効果音がわりに用いています。複数のマイクを立て、声優の諸氏が代わる代わる様々な役柄を生で演じる、というスタイルは一緒でも、話の背景と効果音が違うだけでだいぶ趣が違う。久々に、ど王道の怪談の楽しみに触れた気分です。

 2話目からはいつも通り、木原氏原作のエピソードに切り替わる。ただ、選ばれた作品から、今回のテーマがうっすら透けてきます。2話目では、琵琶奏者がいる時点で察しがつく、もうひとつの八雲原作の話に繋げているのが解りますが、3話目、4話目あたりではもっと明確になる。今回のテーマは音、ひいては感覚でまとめているようです。

 3話目は、『新耳袋』では単話ながら特にインパクトの強いエピソードが選ばれてます。私はあえてタイトルを伏せて言及してますが、実はこの3話目は『呪怨』のなかで登場する怪奇現象の元ネタになっているくらいだったりします。……怪し会は声優のかたのファンも多いようで、原作をご存じない、という方も少なくないようですが、パクリじゃないんだよここのくだり。

 4話目も、他の作品とテーマに相通ずるところがあるのも事実ですが、それ以上に特筆すべきは、あの御巣鷹山での悲劇を背景にしている点です。企画演出の茶風林氏は意識されていなかったようですが、あの事故から30年後だけに感慨深い。内容もさることながら、この話は演出的にも、恐怖と切なさがない混ざって極めて印象深い仕上がりでした。

 続く5話目は、記憶に間違いがなければ『九十九怪談』最新巻に収録された、取材の時期としては最新に近い話。今回はほぼ同内容を1ヶ月後の松江でかける、ということも決まっていることを意識してか、松江で採集されたエピソードでしたが、やっぱり主題は共通している。そのために、原作のオチをあえて落とし、その代わりに“ロウソクしか灯りのない、闇の中で上演する”というこのイベントならではの表現でクライマックスを演出したのには唸らされました……しかし内実を知りすぎているせいで、上演中にこうしたことを考えて、怖いよりもただただ頷いていた私は、もし見えているひとがいたとしたら不気味だったろうな〜。

 そして6話目はもう1本の八雲原作作品、伏せる意味も解らないのではっきり書きますが、『耳なし芳一』です。ここまでに上演したエピソードの演出を踏まえ、更に独自の解釈も加えて描き出した『怪し会』ならではの芳一は、このくだりだけでも聴く価値がある、と言い切れる。怖さもさりながら、業、とでも言うべきものまで描き出した、圧巻の出来映えです。

 もう1時間半ほど経過してますが、ここでやっと小休憩。お清め場に移って、座長・茶風林氏が厳選した純米酒李白と、明治座のセレクトによるおつまみを嗜みながら、出演者の気軽な話に耳を傾けます――ただし今回、茶風林氏がいらっしゃらない。収録の都合で、この八雲の全日程で唯一、今日だけ参加が不可能になってしまった模様。まあ、解っていたので失望はしてませんし、ご本人から映像でのご挨拶もありましたし、何より他の日なら茶風林氏が担当しているはずの役柄を他の方が演じている、という現場に立ち会うのはなかなかレアなので、これはこれで一興。『耳なし芳一』には、これは絶対茶風林氏が口にするべき台詞だ、というくだりがあって、他の日の観客とは違う理由でニヤリと出来るのも今日ならではです。

 ちょっと駆け足気味の休憩を挟んで、第2部へ。20分程度の短いエピソードで締めくくりです。このイベントは、その前までは恐怖を追い求めていても、最後にはしんみりする話を据えるのがお約束ですが、今年もやっぱりグッと来ます。今回、伊藤美紀嬢は冒頭で老婆、5話では小学生まで演じ、ここでは出産を間近に控えた婦人と、八面六臂の活躍でありました。最後に間近で拝見できたのが個人的に嬉しい。

 以上で終了。最後の挨拶も、通常は茶風林氏ですが、今回に限っては代理の鶴岡聡氏です。最初から氏が茶風林氏のサポートをされていたのは存じてましたが、挨拶の場で、「このイベントに不安があるとすれば、茶風林の助手である僕が“下戸”だということです」と仰言ったのに、今日いちばんたまげました。よく付き合ってますね8年も!

 開催は告知されていたもののチケット発売が始まらず、突然発表されたのに苛立ちもしましたが、当日はスタッフの配慮も行き届いて、怪談の醍醐味を心ゆくまで堪能できた約3時間でありました。前述しましたが、今回はこのイベント8年目にして初めて映像ソフトがリリースされます。

 前々から、あの雰囲気をふたたび味わうために是非とも発売して欲しい、と思ってましたが、なにせ相手は“語るところに怪至る”怪談ですから、実はこれまで全篇しっかりと録音できたことが一度もない、という曰く付きのイベントだったりする。しかし今回は気合いを入れ、ゲネプロから撮影を試みているそうなので、何とか発売にはこぎ着けてくれる――と信じたい。レアな回として楽しんだ私も、やっぱり茶風林氏の加わった仕様でも楽しみたいので、現地にて内金を支払って予約済です。本当に、ちゃんと出てくれ。

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