『パラノイアック PARANOIAC』

ユーロスペースのロビーに展示されたポスター。 パラノイアック [DVD]

原作:うり(フリーのホラーゲームに基づく) / 監督、撮影、編集&CG合成:岩澤宏樹 / 脚本:岩澤宏樹、青塚美穂 / 監督補:向悠一 / 美術&衣装:中山美奈 / 特殊造形&特殊メイク:土肥良成 / 照明:稲葉俊充、竹之内祐介 / 音楽:重盛康平 / 出演:小西キス、札内幸太、梶原翔、永衣美貴、宇江山ゆみこ、小野孝弘、鈴木優希、山田将太、坂功樹、朝見心、佐々木勝己、柳瀬はるひ(ゲームメイトβ) / 日本スカイウェイ/コピーライツファクトリー製作 / 配給:NSW / 映像ソフト発売元:BROADWAY

2015年日本作品 / 上映時間:1時間17分

2015年1月17日日本公開

2015年2月4日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon]

ユーロスペースにて初見(2015/01/17) ※初日舞台挨拶つき上映



[粗筋]

 小説家・高村美紀(小西キス)は取材のために、担当編集者・早川翔とともに、ある廃墟に赴いた。

 美紀には佐伯妙子という叔母がいたが、彼女は子供が死産となったことを契機に精神に変調を来し、行方をくらましたのちに、かつて老人ホームだったこの廃墟で餓死しているのが発見された。ホームレスも同然の状態だった彼女が最後にどんな生活をしていたのかを調査し、次回作の題材にすることを考えていた。

 美紀と早川は管理人の息子である三浦信二の案内で廃墟を探索した。叔母がどうにかして持ち込んだと思しいピアノのある部屋の他に、鍵が紛失して侵入できなくなっていた部屋が3つ。

 夜が更けて、信二が立ち去ったあとも、美紀は早川と共に探索を続けた。屋内にはレコードと、妙子のものらしきビデオテープが残されていた。ふたりがビデオテープの内容を確かめようとしたとき、廃墟に大きな物音が響き渡る。

 恐る恐る様子を探りに行くと、信二が舞い戻ってきた。ピアノの部屋で見つけたレアもののオモチャに隠されていた鍵を発見し、浮かれてやって来たのである。果たしてそれは、封印されていた部屋にかけられた南京錠の鍵だったのだが、問題の部屋に踏み込んだ3人はそこで、想像を絶する出来事に直面する……

[感想]

 原作となったオンラインゲームの内容は正直なところよく知らない。私がこの作品を劇場公開の際、わざわざ舞台挨拶の回に鑑賞したのは、岩澤宏樹が監督していたからに他ならない。

 恐らく、ビデオオリジナルの怪奇ドキュメンタリー、というコンテンツを定着させた最大の功労者と言っていい『ほんとにあった!呪いのビデオ』というシリーズが存在するが、岩澤監督はこのシリーズにおける重要人物だった。最初は演出補という立場で、取材や投稿者らに対するインタビューで作中に顔を見せ、のちに演出に昇格すると、次第にそのスタイルを洗練させ、シリーズ久々の劇場版にして、シリーズでも指折りの傑作をものにした。シリーズを離脱した岩澤監督が、フェイク・ドキュメンタリースタイルによるシリーズ『心霊玉手匣』を立ち上げたのち、初めて発表した長篇映画が本篇だったのである。

 そういう大前提があって鑑賞すると、ある意味で本篇はごく自然な内容であると同時に、ちょっとした驚きをもたらす作品でもある。

 本篇はまさにフェイク・ドキュメンタリー、或いはファインディング・フッテージのスタイルで描写される。作中人物が撮った映像を繋げていき、観客に物語の中にいる臨場感を味わわせると共に、多数発生する異変を重層的に提示していき、謎と恐怖とを膨らませていく。

 恐怖の演出をちりばめた脱出ゲームを元にしているからなのか、手懸かりの隠し方や物語の組み立てにゲーム的な趣向があるが、しかしこの物語、一般的な謎解き作品のように筋の通った結末に落ち着くわけではない。驚きや予想外の展開はあるが、いったい何故こんなことになったのか、という説明はついていない。もし鮮やかな決着や、衝撃の逆転、といった展開を期待すると、肩透かしの感を味わうだろう。なんじゃそりゃ、と怒り出す人がいても不思議ではない、とさえ思う。

 だが、主観視点スタイルの効果を理解した演出、描写が濃厚に醸しだすホラーの空気が、ある意味では突き抜けていく感覚はなかなかにユニークであり興味深い。常軌を逸した事態に感情を露わにする登場人物の素としか思えない反応や、非現実的な推測、結論に飛びついて更に予想外の展開を招くさまは、いったん慣れるとクセになりそうな魅力がある。

 この作品、実は岩澤宏樹という監督が、『ほん呪』に携わった期間のうちにかなり特異な作家性を築き上げていて、それが初めて本格的に発揮された、と言える。複数のエピソードがリンクしあいながら最終的に辿り着くラストシーンの奇妙な美しさに戸惑うひとも多いだろうが、それこそが一部のひとを魅了する個性の象徴ともなっている。

 かくいう私も、戸惑いつつもこのあとの発展に期待しているのだが、その後岩澤監督は『心霊玉手匣』を第4作まで発表し、小野不由美原作によるオムニバス『鬼談百景』に参加しているが、私の知る限り大きな作品を発表していない。『心霊玉手匣』もまた本篇に似た暴走を示した怪作に発展していたが、それ故に客を選んでしまう状況になっているのかも知れない。

 現在予告されている、ほぼ自主製作となる『心霊玉手匣 其の五』、そして限定的に発表された短篇まで含んだ世界観と地続きであるという『壊れろ(仮)』が早く発表されることを願いたい。本篇の構成、クライマックスの組み立てに窺えるユニークな可能性の行く先を、早く披露して欲しいと思う。

 ……なお、原作をよくご存知の方が納得できる内容であるかどうか、については一切保証しかねます。

関連作品:

ほんとにあった!呪いのビデオ55』/『鬼談百景

超能力研究部の3人』/『ある優しき殺人者の記録

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