オルフェはなぜ振り返ってしまったのか?

 まだまだコロナ禍が収まる気配を見せないこともあり、このところ週末の映画鑑賞は控えめでした。が、今回は時間割を考慮した結果、あえて出かけることに。
 しかし、上映開始が9時、というのはなかなかの試練でした。いつもなら、朝の支度が済んで、ようやく『Fit Boxing』が佳境にさしかかる頃合いです。エクササイズは後回し、食事なども急いで済ませないと間に合わない。しかも、当初の予報ではなかったはずの雨が降っていて、久々に電車で移動する羽目に――まあ、ここしばらく電車を全く使っておらず、モバイルSuicaの残額が二月ばかりろくに減ってませんでしたから、この機会にと利用することに。行き先は日本橋、普段ならこの距離で乗り継ぎなんてしたくないのですが、雨が降っているときは非常に楽。だって、TOHOシネマズ日本橋が入っているコレド室町は最寄りの三越前駅から直結しているから。自宅から最寄り駅に移動するあいだ以外、まったく雨に当たらずに済むのです。
 約4ヶ月ぶりに訪れたTOHOシネマズ日本橋にて鑑賞したのは、18世紀のフランスを舞台に、女性画家と結婚を控えた貴族の娘の禁じられた愛を描いた燃ゆる女の肖像』(GAGA配給)。シャンテで予告篇を観たときから期待していた1本です。
 まさに期待通りの傑作。ストーリー的にはごくざっくりと記した上の文章で説明は済んでしまうんですが、そのプロセスの繊細で、あまりにも美しい表現にただただ心を奪われます。説明じみた台詞はほとんどなく、会話も最小限、しかしその中に交わされる、表情や仕草も含めたやり取りの繊細さが、全篇に情緒を漂わせています。
 興味深いのは、この時代だからこその、家や身分に縛られた婚姻を強いられながらも、それを逞しく受け入れる女性たちの姿です。それが最も強く感じられるのは、家政婦ソフィを巡る出来事と、それへの画家マリアンヌと令嬢エロイーズの態度です。もっと激しい反応をしても不思議はなさそうなのに、彼女たちは飄々と受け入れ、ソフィに協力さえする。それぞれに身分は違えど、どこかで女性故の忍従を強いられる現実において共鳴し、風変わりな友情を築く様が、可憐で狂おしい。
 個人的に終幕はちょっと意外だったのですが、しかしこの大いに含みを持たせたラストシーンの余韻もまたふくよかで素晴らしい。広告では“映画史を変える”なんて大胆な賞賛まで引用してますが、そう言いたくなる気持ちも解らないではない。クラシカルな舞台設定を用いながらも清新な傑作でした。おととい観たアレの微妙な余韻を一発でかき消してくれましたよ。

 映画を観終わってもまだ11時10分。外食するよりは家に戻ったほうが早い、ということで、まっすぐ帰宅し、母と共にありもので昼食を済ませました。

コメント

  1. […] 原題:“Portrait de la jeune fille en feu” / 英題:“Portrait of a Lady on Fire” / 監督&脚本:セリーヌ・シアマ /  […]

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