『戦場のメリークリスマス〈4K修復版・2K上映〉』トークイベント付上映 at ヒューマントラストシネマ有楽町。

 間もなく大島渚監督作品が国立機関に収蔵され、それによって大規模なロードショーに煩雑な手続が必要になるらしい。それに先駆け、修復を施した代表作2本『戦場のメリークリスマス』と『愛のコリーダ』が相次いで全国順次ロードショーとなります。前者は過去にいちど、午前十時の映画祭8で鑑賞したけど感想は書き上げてない、後者に至っては、とても私好みの題材なのに未鑑賞、なのでどちらも観に行くことは確定していた。
 問題はいつ観に行くか、です。調べてみると、『戦場のメリークリスマス』はヒューマントラストシネマ有楽町でトークイベントつきの上映が何度か行われている。どういう話題になるのか解りませんが、せっかくだからイベントつきの回に観てみよう――と思ったのですが、意外な悩みの種があった。

 ヒューマントラストシネマ有楽町での上映が、2Kになってる。

 恐らく上映機材が4Kに対応出来ない、といった事情があるのでしょう。しかしせっかく〈4K修復版〉と銘打ってるんだから、4Kで観てみたい。ならば、4Kに対応している劇場で観よう、とあらためて調べてみた。

 都内では立川シネマシティしか4K上映してないそうです。

 ……行ったことのない劇場、という意味では興味がある。音響にも拘っているようなのでその価値はありそう――だけど、我が家から立川は、さすがに遠すぎる。
 というわけで4Kでの鑑賞は断念、ヒューマントラストシネマ有楽町にて、イベントのある20日18時25分からの回を鑑賞することにしました。

 天気がいい、というより少し暑いくらいの陽気なので、当然ながら移動はバイク。駐車場が埋まっていることを考慮して早めに出かけてみたら、そういうときにはしっかり空きがある。早めに映画館に行って、場内の展示を眺めたり、1回外に出て周辺のお店の営業状況を観察したりして時間を潰したのでした。
 イベントがあるため、予告篇なしですぐに本篇へ。というわけで戦場のメリークリスマス〈4K修復版〉』(Unplugged配給)です。
 最初に観たのは公開から数年後のリヴァイヴァル、前回に観たのは前述の通り午前十時の映画祭8にて、2017年12月25日のことでした――わざわざクリスマスに合わせてやった。そして今回が3度目。
 なんだか、観れば観るほど魅せられていく気がします。イギリス人将校の目から見た日本軍たちの横暴と、それでも確かに存在する人間性。誰もが自分を正しいと信じていて、それゆえにどうしようもなく間違ってしまう戦場のリアルを、戦闘を描かずに描写する、という荒技を、いま観ても挑戦的な配役で成し遂げている。
 登場人物はほぼすべて男性、決して清潔とは言えない俘虜収容所を舞台にしているのに、構図や色遣い、中心となるデヴィッド・マメットや坂本龍一の佇まいによって、やたらと美しく印象的に映る。そして、最終的にぜんぶ持っていくビートたけしの屈託のない笑顔が忘れがたい。
 話題性の高さもあって大ヒットになった作品ですが、いま観ても色褪せていない。今後も残る名作だと思います。

 上映終了後はトークイベントです。
 登壇者は、ブロードキャスターのピーター・バラカン氏と、『戦場のメリークリスマス 30年目の真実』を編集した吉村栄一氏。
 吉村氏はともかく、ピーター・バラカン氏はなにゆえ、と思ってたんですが、実はガッツリ作品そのものに関わっていたらしい。撮影当時、坂本龍一やYMOの国外コーディネーターをしていた氏は、本篇のラロトンガ島におけるロケに坂本の付き人として同行した。放っておくとギリギリまで寝ている坂本がちゃんと食事をしたのか確認し、ホテルからロケ地まで送り届けるのが仕事で、それ以外は時間がたっぷり空いているため「なんでも手伝う」と助監督に告げたところ、通訳から交通整理、更にはケーブルを引っ張る役まで、随所で駆り出されたという。挙句、本篇にもエキストラとして顔を見せているそーです。捕虜のひとりとして出たシーンはカットされたということですが、冒頭、軍法会議直前にジープが走っているくだり、バナナ売りとして映っているのだとか。知っていれば捜したものを!
 そういうわけで、製作の現場を知るひとと、編集者として資料を蓄えたひと、という最高の組み合わせですから、終始話が興味深い。吉村氏いわく、現地ではデヴィッド・ボウイ主催のパーティも開催されていたそうですが、しかしバラカン氏はこっちは覚えてないらしい。よそではしたことのなかった肉体労働で毎日心地好く眠っていたため参加しなかったのかも、という話。
 特に面白かったのは、坂本が休みのときのエピソード。現地でレンタカーを借りてドライヴしていたところ木にぶつかり、翌日簡単な裁判を受けることになった。その法廷が、何と本篇の中で坂本演じるヨノイ大尉が立った軍事法廷と同じ場所だった。この作品はニュージーランドの支援を受けていたため、撮影に公共施設が多数用いられていて、法廷も当然、劇中と一緒だったわけです。本篇で裁く立場だった坂本がそこで罰金刑を受けたのだそうな。なかなかシュールな状況です。
 意外なキャスティングでも話題になった本篇ですが、特にデヴィッド・ボウイは本篇に強い意気込みで臨んだそうです。ちょうど撮影の始まる2ヶ月前、彼に歌を教えた兄が心を病んだまま自殺を選択した、という事件があった。晩年、兄のことを思いながらも会うことが出来なかった、という境遇が、劇中で彼が演じたジャック・セリアズ少佐と重なる。セリアズ少佐のこの設定は原作通りであったため、決してボウイに当て書きしたものではなかったそうですが、当人としては運命を感じたのかも知れません。
 ……と、実に興味深い話ばかりで、もっと聞きたいくらいでしたが、時間になってしまった。観客からひとつだけ質問を受けたバラカン氏が、この当時はまだ坂本の英語力は乏しくダイアログコーチが活躍した一方、まったく日本語を解さないトム・コンティが耳で聞いただけであれだけ見事に喋っていた、と答えて終了。

 せっかくイベントがあるなら、と軽い気持ちでこの回を選んだのですが、これは実に儲けものでした。3年半ぶりに観て改めていい映画だ、と思いましたが、なんか早いうちにもういっかい鑑賞してみたくなった……行くか? 立川まで?
 まだ世のお店は通常営業まで程遠く、映画が終わった頃には立ち寄る店もないので、まっすぐ帰宅。

コメント

タイトルとURLをコピーしました